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中国経済の失速

2023年10月6日
◆信頼回復へ透明性を高めよ◆

 中国経済の失速が目立つ。悪化すれば世界的な金融不安を招きかねないとの懸念もある。

 経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団は香港での株式取引が停止。創業者の許家印会長は当局に拘束された。碧桂園や遠洋集団などほかの大手不動産でも経営悪化が相次ぎ、不動産不況が深刻化している。

 景気の悪化には複合的な要因がある。不動産に依存した産業構造を見直し、投資家の不安を取り除く改革が必要だ。

 中国経済はコロナ禍を経て、今年いったん回復したかに見えたが、消費が低迷して経済成長は鈍化。外資による対中投資も減少し、4~6月の対中直接投資は49億ドル(約7300億円)と、確認できる1998年以降で最少となった。

 失業率は改善する気配がなく、都市部の16~24歳の若者失業率は6月には21・3%と最悪を更新後、当局は7月から公表を停止した。8月の消費者物価指数はわずかにプラスに転じたが、7月に2年5カ月ぶりのマイナスを記録し、デフレ懸念がくすぶる。少子高齢化など日本との共通点もあり、不動産バブル崩壊後にデフレ下で長期停滞に陥った「日本病」との指摘まで出始めている。

 不動産依存からの脱却は積年の課題だったのに、中国政府が解決を先延ばししてきたことに問題がある。土地使用権取引をはじめとする不動産関連産業は国内総生産(GDP)の3割を占めるといわれ、地価の上昇が高成長を支えてきた。一方で地方政府は財源不足を補うため、土地使用権売却で巨額の収益を追求してきた。不動産が高騰するほど地方政府が潤う仕組みができあがっていた。

 北京、上海など都市部の住宅価格が平均年収の20倍以上になったのは不健全で、住宅を買えない若者は結婚や出産を控えるという悪循環に陥る。

 中国政府の経済政策担当者は、2年前から中国経済の中長期的な下押し要因を指摘していた。(1)少子高齢化などによる需要の縮小(2)資源調達の不安定化(3)将来不安や「期待の低下」―の3点だ。現在の経済の失速はこの中長期リスクが顕在化したと言える。特に「期待の低下」は習近平国家主席の政治思想によるところが大きい。

 政府は規制を緩和したり、中国人民銀行(中央銀行)が事実上の政策金利である「ローンプライムレート(貸出基礎金利)」を2度も引き下げたりしたが、小粒の対策だけでは不十分だろう。不動産に頼る財政を健全化する構造改革を加速させるべきだ。市場の信頼を取り戻すためには、政策の透明性を高め、民間経済を重視する姿勢を明確にすることも欠かせない。

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