やじ排除一部違法
2023年6月27日
◆過剰警備は厳に戒めるべき◆
2019年参院選で当時首相だった安倍晋三氏の街頭演説にやじを飛ばし、北海道警に排除された男女2人が起こした訴訟は、控訴審の結論が当事者によって分かれた。
一審札幌地裁判決は、ほぼ訴え通り排除の違法性を認め、2人に対する損害賠償を道警側に命じたが、札幌高裁判決は一転して男性の排除は適法と判断、請求を退けた。判決の後退感は否めないが、重要なのは女性に関しては一審同様、排除を「憲法が保障する表現の自由の侵害」と明確に認定し、賠償命令を支持したことだ。
言論をはじめとする「表現の自由」が民主主義の礎であることは言うまでもない。公権力による制限には最大限の慎重さが求められるとする司法判断は一貫している。
高裁判決によると、女性はJR札幌駅近くでの安倍氏の街頭演説に際し、聴衆エリアから「増税反対」「自民党反対」などと大声で連呼した。これに対し、警察官は女性の腕などをつかみ、取り囲んで移動させ、再び聴衆エリアに行かないよう引きとめた。さらに約1時間にわたって付きまとった。
警察官職務執行法は「危害を受ける恐れがある者を引きとめ、避難させることができる」(第4条)、「犯罪がまさに行われようとする場合、制止することができる」(第5条)と規定。道警側はこれを根拠に「女性が聴衆らに危険を及ぼす可能性もあった」などと主張した。
判決は一審と同じく「聴衆が騒然となり、緊迫した状態になったとは認められない。警察官の行為は、必要かつ相当な範囲を超えている」といずれも否定。「やじは政治的な意見表明であり、表現の自由が侵害された」と判断した。
警察官の付きまといについても「移動・行動の自由の制限に当たる。通行人らに不審者の印象を与え、名誉権も侵害した」と認定した。控訴審も女性の全面勝訴である。
一方、男性の訴えが一転して退けられたのは、当時の状況の事実認定が変わったために過ぎない。判決は道警側が新たに提出した動画などを根拠に、一審と異なり聴衆らと男性の小競り合いを認定。男性が演説車両に向かって突然走り出したことなどと合わせ、「警察官が、男性や安倍氏らに対する切迫した危険があると判断したのは合理的」としたのだ。
昨年3月の一審判決後、安倍元首相銃撃事件が起きた。民主主義に対する暴力は許されず、適正な警備強化が求められるが、過剰警備は厳に戒めるべきだ。必要なのは悪意の人物への対処であり、政治に声を上げる市民の排除ではない。
2019年参院選で当時首相だった安倍晋三氏の街頭演説にやじを飛ばし、北海道警に排除された男女2人が起こした訴訟は、控訴審の結論が当事者によって分かれた。
一審札幌地裁判決は、ほぼ訴え通り排除の違法性を認め、2人に対する損害賠償を道警側に命じたが、札幌高裁判決は一転して男性の排除は適法と判断、請求を退けた。判決の後退感は否めないが、重要なのは女性に関しては一審同様、排除を「憲法が保障する表現の自由の侵害」と明確に認定し、賠償命令を支持したことだ。
言論をはじめとする「表現の自由」が民主主義の礎であることは言うまでもない。公権力による制限には最大限の慎重さが求められるとする司法判断は一貫している。
高裁判決によると、女性はJR札幌駅近くでの安倍氏の街頭演説に際し、聴衆エリアから「増税反対」「自民党反対」などと大声で連呼した。これに対し、警察官は女性の腕などをつかみ、取り囲んで移動させ、再び聴衆エリアに行かないよう引きとめた。さらに約1時間にわたって付きまとった。
警察官職務執行法は「危害を受ける恐れがある者を引きとめ、避難させることができる」(第4条)、「犯罪がまさに行われようとする場合、制止することができる」(第5条)と規定。道警側はこれを根拠に「女性が聴衆らに危険を及ぼす可能性もあった」などと主張した。
判決は一審と同じく「聴衆が騒然となり、緊迫した状態になったとは認められない。警察官の行為は、必要かつ相当な範囲を超えている」といずれも否定。「やじは政治的な意見表明であり、表現の自由が侵害された」と判断した。
警察官の付きまといについても「移動・行動の自由の制限に当たる。通行人らに不審者の印象を与え、名誉権も侵害した」と認定した。控訴審も女性の全面勝訴である。
一方、男性の訴えが一転して退けられたのは、当時の状況の事実認定が変わったために過ぎない。判決は道警側が新たに提出した動画などを根拠に、一審と異なり聴衆らと男性の小競り合いを認定。男性が演説車両に向かって突然走り出したことなどと合わせ、「警察官が、男性や安倍氏らに対する切迫した危険があると判断したのは合理的」としたのだ。
昨年3月の一審判決後、安倍元首相銃撃事件が起きた。民主主義に対する暴力は許されず、適正な警備強化が求められるが、過剰警備は厳に戒めるべきだ。必要なのは悪意の人物への対処であり、政治に声を上げる市民の排除ではない。