最終盤の国会
2023年6月16日
◆重要課題の説明責任果たせ◆
国民の不安や疑念に、岸田文雄首相が国会論戦を通じて真摯(しんし)に向き合ったとは言いがたい。1月に召集された今国会は、会期延長がなければ来週21日に閉会する。この間の審議では、安全保障や原発、人権といった日本の「国のかたち」に関わる重要課題への対応が問われ続けた。
岸田政権が、従来の方向性とは大きく異なる政策を打ち出したためだ。国会内外で反対論が沸き上がったが、顧みることはほとんどなかった。首相が掲げる「聞く力」はポーズだったと疑われても仕方あるまい。
安保政策を巡り政府は昨年末、防衛費に2023年度からの5年間で、増税分を含め43兆円を投じる計画を策定。中国や北朝鮮の脅威増大という事情はあるが、それまでの計画からは17兆円の大幅上積みになった。
憲法に基づく専守防衛の理念に反するとの指摘がある反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も容認。23年度予算には、米国製巡航ミサイルの取得費を計上した。
防衛費の積算根拠や装備の必要性、財源確保策に関し、岸田首相ら政府側の答弁は具体性に欠けたものの、計画の正当性を主張し続けた。反撃能力の発動基準も曖昧で、「平和国家」転換に拍車がかかるとの懸念は依然根強い。
今国会では、最長60年としてきた原発の運転期間の延長を可能にする一連の法律が成立した。東京電力福島第1原発事故後の抑制的な原発政策に終止符を打った形だ。国民の間に、経年劣化による事故を心配する声があるのは当然だろう。
リスク低減に向け首相は、原子力規制委員会や原発事業者の取り組みが重要としたが、責任を負うべきは原発回帰を主導した首相自身だ。
入管施設の長期収容解消を目的に、難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限した改正入管難民法も成立した。
本国に戻れば命の危険がある人まで送還される危惧を生じさせた改正だ。難民認定率の低さから、日本に向けられた「難民鎖国」批判が高まっても、薄まりはすまい。
国籍を問わず誰もが尊重されなければならない人権に関わり、日本の対外評価を左右する問題だ。きょうにも議員立法として成立見込みのLGBTなど性的少数者への理解増進法案とともに、改善の努力を怠ってはならない。
政府が国会で説明責任を果たす一方、国会は政府の方針や法律について見直すべきは見直す。首相と与党が率先して実行しなければ、国会の存在意義は低下し、政治の信頼回復はおぼつかない。
国民の不安や疑念に、岸田文雄首相が国会論戦を通じて真摯(しんし)に向き合ったとは言いがたい。1月に召集された今国会は、会期延長がなければ来週21日に閉会する。この間の審議では、安全保障や原発、人権といった日本の「国のかたち」に関わる重要課題への対応が問われ続けた。
岸田政権が、従来の方向性とは大きく異なる政策を打ち出したためだ。国会内外で反対論が沸き上がったが、顧みることはほとんどなかった。首相が掲げる「聞く力」はポーズだったと疑われても仕方あるまい。
安保政策を巡り政府は昨年末、防衛費に2023年度からの5年間で、増税分を含め43兆円を投じる計画を策定。中国や北朝鮮の脅威増大という事情はあるが、それまでの計画からは17兆円の大幅上積みになった。
憲法に基づく専守防衛の理念に反するとの指摘がある反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も容認。23年度予算には、米国製巡航ミサイルの取得費を計上した。
防衛費の積算根拠や装備の必要性、財源確保策に関し、岸田首相ら政府側の答弁は具体性に欠けたものの、計画の正当性を主張し続けた。反撃能力の発動基準も曖昧で、「平和国家」転換に拍車がかかるとの懸念は依然根強い。
今国会では、最長60年としてきた原発の運転期間の延長を可能にする一連の法律が成立した。東京電力福島第1原発事故後の抑制的な原発政策に終止符を打った形だ。国民の間に、経年劣化による事故を心配する声があるのは当然だろう。
リスク低減に向け首相は、原子力規制委員会や原発事業者の取り組みが重要としたが、責任を負うべきは原発回帰を主導した首相自身だ。
入管施設の長期収容解消を目的に、難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限した改正入管難民法も成立した。
本国に戻れば命の危険がある人まで送還される危惧を生じさせた改正だ。難民認定率の低さから、日本に向けられた「難民鎖国」批判が高まっても、薄まりはすまい。
国籍を問わず誰もが尊重されなければならない人権に関わり、日本の対外評価を左右する問題だ。きょうにも議員立法として成立見込みのLGBTなど性的少数者への理解増進法案とともに、改善の努力を怠ってはならない。
政府が国会で説明責任を果たす一方、国会は政府の方針や法律について見直すべきは見直す。首相と与党が率先して実行しなければ、国会の存在意義は低下し、政治の信頼回復はおぼつかない。