国際賢人会議
2022年12月15日
◆「核抑止」超える議論始めよ◆
岸田文雄首相が提唱した「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議」が被爆地広島で初会合を開いた。メンバーは核保有国、非保有国、核の傘の下にいる「傘国」出身の専門家ら15人だ。
8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナの原発の安全管理に関する記述にロシアが反対し、2015年の前回会議に続き決裂した。2回連続で合意形成に失敗したのは、国際的核秩序の礎石であるNPTが52年前に発効してから初の非常事態だ。NPTの機能不全を指摘する声もある中、核を巡る国際情勢は近年、悪化の一途をたどっている。
今回の会議にビデオメッセージを寄せたグテレス国連事務総長も警鐘を鳴らした。「この初会合は非常に危機的な時に開かれている。広島と長崎、冷戦の壊滅的な教訓にもかかわらず、核兵器は明白な危険であり続けている。(冷戦の後)これほどあからさまな核使用の脅しを耳にしたことはなかった」
核の脅しを振りかざすロシアのウクライナ侵略戦争、米中競争を背景に進む中国の核戦力増強、米ロ間の意思疎通の欠如、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の核問題、国際合意到達のめどが立たないイランの核問題。多様な核リスクの肥大化が同時並行で進むのは、人類の歴史において未曽有のことだ。
「核カオス(混沌(こんとん))」とも言える状況が露呈する中、岸田首相肝いりの賢人会議の責務は重く、現状打破を望む市民社会の期待も高い。15人の賢人にはまず「冬の時代」とも言われる核軍縮の閉塞(へいそく)状態に風穴をあける具体的アイデアを提示してもらいたい。また「核のタブー」と呼ばれる核不使用の原則を制度的な規範とする方策を追求し、「長崎を最後の被爆地に」との決意と覚悟を人類全体で共有する道筋を示してほしい。
さらに、冷戦後も核兵器の価値を是認してきた核抑止論を超克する議論を、力強く進めてもらいたい。岸田首相は外相時代にも、別の賢人会議を主宰した経緯がある。この時は19年に、今回も座長を務める白石隆・熊本県立大理事長が議長報告をまとめ、次の一節を刻んだ。
「核抑止は、特定の環境における安定性を強化するかもしれないが、世界の安全保障にとって危険な基盤であり、全ての国は、より良い、長期的な解決を追求すべきである。核抑止の賛成派および反対派は、意見の相違を橋渡しすることに粘り強く取り組まなければならない」
著名な国際政治学者で現実主義的な白石氏が核抑止の持続可能性に疑義を呈したことの意味は大きい。核抑止を超える解を模索すべきだ。
岸田文雄首相が提唱した「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議」が被爆地広島で初会合を開いた。メンバーは核保有国、非保有国、核の傘の下にいる「傘国」出身の専門家ら15人だ。
8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナの原発の安全管理に関する記述にロシアが反対し、2015年の前回会議に続き決裂した。2回連続で合意形成に失敗したのは、国際的核秩序の礎石であるNPTが52年前に発効してから初の非常事態だ。NPTの機能不全を指摘する声もある中、核を巡る国際情勢は近年、悪化の一途をたどっている。
今回の会議にビデオメッセージを寄せたグテレス国連事務総長も警鐘を鳴らした。「この初会合は非常に危機的な時に開かれている。広島と長崎、冷戦の壊滅的な教訓にもかかわらず、核兵器は明白な危険であり続けている。(冷戦の後)これほどあからさまな核使用の脅しを耳にしたことはなかった」
核の脅しを振りかざすロシアのウクライナ侵略戦争、米中競争を背景に進む中国の核戦力増強、米ロ間の意思疎通の欠如、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の核問題、国際合意到達のめどが立たないイランの核問題。多様な核リスクの肥大化が同時並行で進むのは、人類の歴史において未曽有のことだ。
「核カオス(混沌(こんとん))」とも言える状況が露呈する中、岸田首相肝いりの賢人会議の責務は重く、現状打破を望む市民社会の期待も高い。15人の賢人にはまず「冬の時代」とも言われる核軍縮の閉塞(へいそく)状態に風穴をあける具体的アイデアを提示してもらいたい。また「核のタブー」と呼ばれる核不使用の原則を制度的な規範とする方策を追求し、「長崎を最後の被爆地に」との決意と覚悟を人類全体で共有する道筋を示してほしい。
さらに、冷戦後も核兵器の価値を是認してきた核抑止論を超克する議論を、力強く進めてもらいたい。岸田首相は外相時代にも、別の賢人会議を主宰した経緯がある。この時は19年に、今回も座長を務める白石隆・熊本県立大理事長が議長報告をまとめ、次の一節を刻んだ。
「核抑止は、特定の環境における安定性を強化するかもしれないが、世界の安全保障にとって危険な基盤であり、全ての国は、より良い、長期的な解決を追求すべきである。核抑止の賛成派および反対派は、意見の相違を橋渡しすることに粘り強く取り組まなければならない」
著名な国際政治学者で現実主義的な白石氏が核抑止の持続可能性に疑義を呈したことの意味は大きい。核抑止を超える解を模索すべきだ。