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コロナ拡大と五輪

2021年7月21日
◆国民の安全守る使命果たせ◆

 国民の「安全」を守り、暮らしに「安心」をもたらす。国のリーダーにとって最大の責務であることは言うまでもない。東京五輪・パラリンピックの開幕が迫った日本で、菅義偉首相はその使命を果たしているのか。

 五輪開催都市である東京では新型コロナウイルスの感染者が再拡大し、1日当たり千人を超す新規感染者の報告が続いている。5月の「第4波」ピーク時を上回っており、4度目の緊急事態宣言が発令中だがその効果は表れていない。専門家は現在の増加ペースで推移すれば、五輪閉会後には2400人程度に上るとの試算を公表した。

 東京など首都圏の感染者数は全国のおよそ3分の2を占めている。今後、感染力の強いデルタ株への置き換わりが進み、感染再拡大が全国に波及する可能性もある。感染を収束させられないのは、政府対策の不備や迷走が第一の要因だろう。

 それでも五輪は23日に開幕する。菅首相は「安全、安心な大会を実現する」と主張し、開催に突き進んできた。10都道県での広域実施となる33競技339種目の大半は無観客で行われる。菅首相は選手らの多くがワクチン接種を済ませている上、厳格な検査と行動制限を課すことで、ウイルスの国内流入を防ぐと強調する。

 だが事前合宿先で感染が判明した例もあり、水際対策は万全ではあるまい。管理の緩さが露呈した関係者の行動も問題視されている。選手らと外部の接触を遮断する「バブル」方式に穴がないか点検するとともに、五輪を発生源としたクラスター(感染者集団)を認知した場合、大会を続行するかどうかを検討しておく必要がある。

 菅首相はコロナ禍で行われる東京五輪の開催意義を巡って「世界が一つになり、難局を乗り越えていけることを発信したい」と繰り返している。さすがに「コロナに打ち勝った証し」との言い回しは封印したようだ。生活や経済が復活する手応えを国民が感じていない現状で、言葉だけの無責任な意義付けにしか映らない。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の現状認識にも疑問が湧く。バブル方式によりコロナ感染を「日本国民が恐れる必要はない」と断言。首相と会談した際には、感染状況が改善した場合「有観客」を検討してほしいと伝えたという。国民感情を軽視している。

 菅首相が優先しなくてはならないのは、五輪を予定通り終わらせることではない。国民の命を守るためコロナ感染を一日も早く収束に向かわせることだ。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求に応え、コロナ対策を充実させる論議にも臨むべきだ。

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