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最低賃金大幅アップ

2021年7月20日
◆地方の中小企業守る戦略を◆

 2021年度の地域別最低賃金は時給で一律28円引き上げ、全国平均930円とする目安が決まった。新型コロナウイルス禍で事実上の凍結となった昨年度から一転、過去最大の引き上げ幅となった。都道府県の地方審議会が協議して8月ごろ改定額をまとめ、10月ごろに新しい最低賃金が適用される。

 次期衆院選をにらみ大幅アップを求めた菅義偉首相の意向が反映された。労働者の待遇改善は歓迎だが、人件費増を迫られる地方の中小企業経営者らは反発している。政府は雇用、経営を守るための一時しのぎではない中長期戦略を示すべきだ。

 安倍前政権は最低賃金引き上げによる消費拡大を目指し、16年度から4年連続で年率3%以上の大幅アップを実現。しかしコロナ流行で企業業績が悪化した昨年度は、安倍晋三前首相が「雇用を守ることが最優先」と表明し、中央最低賃金審議会は「現状水準維持」として目安額を示さなかった。

 今回は、ワクチン接種開始で展望が開け、飲食や宿泊業などを除けば経済は回復しているとして、最低賃金を上げても雇用情勢に大きな影響はないと判断された。20年度の法人税収は前年度比4・1%増、全体の税収も過去最高。「果実」は一部大企業の正社員だけでなく、最低賃金で働く非正規労働者らにも分配されてしかるべきだ。

 問題はコロナ禍で打撃を受ける地方の中小企業が負荷に耐えられるかどうかだ。今は雇用調整助成金を受給しながら何とか従業員雇用を守っている。経営者には最低賃金大幅アップは逆ベクトルの過酷な政策だ。日本商工会議所が「経営者の心が折れ、廃業がさらに増加し、雇用に深刻な影響が出る」とした懸念にも対応が必要だ。

 政府は、設備投資を行った上で最も時給が低い労働者の賃金を一定以上上げた企業に対する「業務改善助成金」の充実を検討している。しかし、雇用維持の上では当座をしのぐ対症療法の域を出ないだろう。

 政府は経済財政運営の指針「骨太方針」に「最低賃金引き上げで早期に全国平均千円を目指す」と明記した。今後も増額を続ける構えなら恒久的な政策を整えるべきだ。大企業はコスト削減のため仕入れ先に低価格を押し付けがちだが、中小企業が従業員の賃上げ分を価格転嫁しやすくなるような制度を官民挙げて具体化する必要がある。

 既に時給1300円を超す英仏両国などに追いつくことや、大都市圏と地方の221円ある格差の是正も依然課題だ。菅政権に求められるのは、最低賃金アップの先にどんな日本の将来像を描くか、という長期ビジョンを提示することだろう。

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