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黒い雨控訴審判決

2021年7月17日
◆救済拡大へ政治決断必要だ◆

 原爆投下後に放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたとして、国の援護対象外とされた住民84人が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決が広島高裁であった。判決は昨年7月の一審広島地裁判決に続き全員を被爆者援護法に基づく被爆者と認めて手帳交付を命じ、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却した。

 注目されるのは被爆者認定を巡り、地裁判決より踏み込んだ判断を示した点だ。援護法で定める認定要件の一つ「放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」について「放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と指摘した。

 さらに「たとえ黒い雨に打たれなくても、放射性物質が混入した井戸水を飲むなどして内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があった」とも述べた。放射線に起因する病気を発症しているかどうかを問わず、被爆者を広く認定する立場を明確にし、長年にわたり「科学的合理性」を盾に被爆者を絞り込んできた国に転換を強く迫った。

 地裁判決後、厚生労働省は気象学や被爆者医療の専門家らを集めた検討会で援護対象の拡大も視野に黒い雨の再検証を進めているものの、降雨範囲の把握すら難しく足踏み状態が続く。原爆投下から76年。政治決断で救済拡大に乗り出すべきだ。

 援護法に基づく被爆者は▽原爆投下時に爆心地近くにいた人▽投下から2週間以内に爆心地近くに入った人▽被爆者の救護などに従事した人▽被爆者の胎児だった人―で、被爆者健康手帳が交付され、医療費の自己負担がなくなり、各種手当も支給される。

 爆心地周辺区域の外側にあり当時の気象台による調査で投下後に黒い雨が1時間以上降り続いたとされる「特例区域」にいた人は無料で健康診断を受けられ、一定の病気にかかっていれば手帳が交付される。区域外の原告らには交付されなかった。

 地裁、高裁ともに黒い雨は特例区域よりも広い範囲で降ったとした。その上で、原爆投下で生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊な被害であることに着目して制定されたと援護法に言及。国家補償的配慮が制度の根底にあり、被爆者を広く認定すべきだと説いた。

 厚労省の検討会では検証の目玉の一つだった気象シミュレーションに複数の委員から異論が噴出。いつ結論を出せるか全く見通せない。2015年の提訴以来、既に原告14人が亡くなった。救済の道を大きく広げた司法判断を重く受け止め、政治責任において早急に援護行政の転換を図ることが求められる。

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