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認知症の新治療薬

2021年6月12日
◆予防と共生を社会の軸足に◆

 今年のアカデミー賞の2冠に輝いた映画「ファーザー」は、認知症の人の視点から生活を巡る混乱と不安を描く。国は2019年に定めた認知症施策推進大綱で、アルツハイマー病などの認知症との「共生」と「予防」を2本柱に掲げる。認知症になっても人として尊厳と希望を持って暮らせる社会をつくる共生が軸足に置かれている。

 米食品医薬品局(FDA)が承認したアルツハイマー病の新たな治療薬「アデュカヌマブ」には、病気になった人の進行を遅らせる「2次予防」に役立つ期待がある。これまで一時的に症状を改善するものしか実用化されておらず、アデュカヌマブの臨床試験では認知症の進行を遅らせる効果が示された。

 認知症は、国民の3人に1人近くが65歳以上という高齢化社会では誰でもなりうる病気だ。バランスの良い食事と適度な運動、人と社会とのつながりを保つなどの生活習慣によって認知機能の低下を緩和できることが知られているが、それだけでは防げない。まだ発症していないが認知症に向かっていることが分かった人や、既に発症した人を含めて進行を遅らせる薬が長年必要とされてきた。

 国内の認知症は2025年に675万~730万人に達すると推計される。これだけの数になると、進行を1年遅らせるだけで認知症の人は大きく減少する。医療や介護の費用は増え続ける一方、進行を遅らせる薬は社会に大きな利益をもたらす。

 アデュカヌマブの臨床試験データの評価を巡っては懐疑的な見方も残る。アルツハイマー病の原因物質と考えられるタンパク質を効率的に除去する一方で、脳浮腫や脳出血などの副作用が起きる可能性もある。こうした疑問点やリスクを正しく見極めるために、米国では市販後も臨床試験が継続されることになっている。今後の動向を冷静に見ていくことが必要だ。

 開発元の製薬大手エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンは、日本でもアデュカヌマブを承認申請した。薬の価格は患者当たり年約610万円との目安が示され、保険適用の範囲によっては国全体の医療費を圧迫する事態も起きかねない。

 世界ではアデュカヌマブに続き、認知機能が低下し始めた「軽度認知障害(MCI)」の段階で投与して進行を遅らせる新薬の開発が複数進んでいる。今回の承認をきっかけに、より安全で効果が高い薬の開発に弾みがつくのを期待したい。

 いつか「夢の薬」が登場しても、認知症の人が安心して暮らせる社会をつくる重要性は変わらない。予防だけでなく共生に向けた社会全体の認知症への理解を高めるべき時だ。

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