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ノーベル平和賞

2020年10月15日
◆国際連帯促すメッセージだ◆

 2020年のノーベル平和賞は国連機関の世界食糧計画(WFP)に授与される。自国第一主義がはびこり、新型コロナウイルス感染症によって対立と分断が深まる世界にあって、国際連帯が今こそ必要だと訴えるノーベル賞委員会の力強いメッセージと受け止めたい。

 WFPは戦争や災害など緊急時に食料を配給し人々の命を守る目的で1961年に設立され、本部はローマにある。1万7千人を超える職員の約9割が、紛争地など途上国で働く「現場第一主義」の組織だ。

 コロナの大流行で飢餓に苦しむ人々が急増中という。WFPのジュネジャ事務局次長によると、感染拡大前に約1億3500万人だった深刻な飢餓状態の人々は年内に2億7千万人に倍増する恐れがある。

 WFPは世界で約5600台のトラック、約30隻の船、約100機の航空機を使い、内戦下のシリアやイエメン、人道危機を抱える南スーダンやナイジェリア、イスラム教徒少数民族ロヒンギャが迫害を受けるミャンマーなどで緊急支援を展開。国際協調に背を向ける北朝鮮でも栄養不足の子供たちに食料を届けている。

 職員は危険と隣り合わせの状況下で、人道支援の最前線に立つ。事故やテロなどでこれまで計110人が犠牲になった。活動は全て任意の資金拠出や募金によって賄われている。コロナで世界経済の落ち込みは厳しいが、飢餓防止のための資金が減ることのないよう国際社会は力を合わせなければならない。

 ノーベル平和賞の伝統的な対象は軍縮の努力や地域紛争の解決、非暴力の人権擁護活動などだが、近年は貧困、教育、地球環境といった幅広い課題も扱ってきた。食料を巡る争いは「最も古い紛争の原因」ともいわれ、今回の授賞は飢餓と平和が関連することを印象づけた。

 同委員会は授賞理由の冒頭で「国際的な連携と多国間協力の必要性が、今ほど明白なときはない」と強調。国連機関、世界保健機関(WHO)も意識した言葉として響く。WHOは「新冷戦」の瀬戸際にある米国と中国の対立で苦境にある。トランプ米大統領はコロナ拡大の責任を中国とWHOに転嫁し、来年7月にWHOを脱退するとしている。現実になれば、感染症対策は停滞を余儀なくされる。

 飢餓の背景として、地球温暖化による干ばつや豪雨など、異常な気象の影響も拡大している。世界で絶えない紛争に加え、感染症、温暖化という人類共通の課題がいずれも食料と飢餓につながっている。人類が共通課題に立ち向かうためには、多国間主義と連携が不可欠であることを改めて確認したい。

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