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自民新総裁に菅氏

2020年9月15日
◆「負の遺産」から目そらすな◆

 自民党の新総裁が、安倍政権の「継承」を掲げた菅義偉官房長官に決まった。菅氏は総裁選で5派閥の支持を受け国会議員票で圧倒、地方票も6割超を獲得し、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長を大差で破った。16日の衆参両院本会議で、安倍晋三首相の後継の第99代首相に指名され、菅新政権が発足する。

 7年8カ月余の安倍政治に対し、「修正」を主張した岸田氏、「転換」を訴えた石破氏との対決で、菅氏が大勝したのはなぜか。これまでの権力基盤を維持し、主要ポストにとどまろうという党内有力者や派閥の思惑、打算が”勝ち馬に乗った”からとみられる。党員投票を省略する短期決戦とし、安倍政治の総括を巡る論戦は低調に終わったところからは、変革を嫌う自民党の姿も浮かぶ。

 国会議員、地方票合わせて534票中、377票は確かに圧勝だ。ただ、与えられた3票の投票先を決めるために、各都府県連が実施した党員らの予備選では、石破氏も一定の票をとっており、岸田票も加えると、安倍政治の修正や転換を望む党員が少なからずいたことをうかがわせた。菅氏はこうした”民意”にも配慮すべきだろう。

 安倍政権の影は、森友、加計両学園問題、桜を見る会など、安倍首相に親しい者が優遇されているのではないか、と行政の公正、公平性に疑念を招いた点だ。にもかかわらず、自身で晴らすこともなく、公文書や記録を廃棄、改ざんし、真相解明を葬った。

 さらに「1強」の下、野党の言い分に真正面から向き合わず国会論戦を逃げ、言論の府の権威を失墜させた。敵と味方を明確に区別して、与党内ですら異論を封じ込める手法は、自民党の持ち味でもあった包摂の精神が姿を消し、分断の風潮を助長したとの指摘もある。

 この間、一貫して官房長官を務めただけに、菅氏もその責任を免れまい。岸田氏が提起した「分断から協調へ」、石破氏が打ち出した「納得と共感の政治」は、史上最長政権の足らざるものを示している。

 コロナ禍、人口減少と少子高齢化の加速、経済再生、地方創生、激動する国際情勢―。国内外の難題が山積するいま、首相が交代するのだから、これまでの政策に固執せず、独自色を発揮してもらいたい。約束した「既得権益やあしき前例主義の打破」の実践は、まず人事で試されるだろう。

 国民や意見の異なる勢力と積極的に対話し、幅広い合意形成をいとわない政治が欠かせない。長期政権がもたらした負の遺産から、決して目をそらさずに改めていくのも”たたき上げ政治家”の責務だ。

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