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黒川検事長辞表

2020年5月22日
◆法改正は白紙撤回すべきだ◆

 東京高検の黒川弘務検事長が安倍晋三首相に辞表を提出した。新型コロナウイルスの感染拡大を巡る緊急事態宣言下の今月上旬、2回にわたり都内にある親しい新聞記者の自宅マンションで賭けマージャンをしていた疑惑が週刊誌に報じられ、法務省の調査に事実関係を認めた。これを受けて、森雅子法相は訓告とする処分を公表した。

 政府は1月、官邸に近いとされる黒川氏について異例の定年延長を閣議決定。次期検事総長に充てるためとの見方が広がる中、さらに内閣の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案を国会に提出。黒川氏の定年延長を後付けで正当化する法改正と批判を浴びた。

 これに対し検察の公正・独立性を損なうとして、元検事総長をはじめとする検察OBらが次々と反対を表明。インターネット上には著名人を含め抗議の投稿があふれた。そうした世論の高まりに政府、与党は改正案の今国会での成立を断念。しかし、なお秋の臨時国会で成立を目指す姿勢を崩さず、今夏の人事で黒川氏が検事総長に起用されるかどうかが焦点となっていた。

 その黒川氏は退く。検事長にとどめた政権には大きな打撃となろう。もはや法改正に国民の理解は得られまい。白紙撤回すべきだ。

 検察庁は行政組織の一つだが、他の省庁と異なり全ての犯罪に捜査権を持ち、起訴権限を独占する。時には政界捜査も手掛ける。法律上、検事総長や検事長の任命権は内閣にあるが、法務・検察の人事案を尊重するのが慣例となっている。

 ところが政府は、このような仕組みを解釈変更で覆したばかりか法制化しようとしている。検察庁法改正案には、検察幹部が役職を退く年齢に達しても内閣の判断でポストにとどまれる特例規定が盛り込まれている。

 なぜ、そんな規定が必要なのか。検察を抑え込み、政権や与党に捜査が及ばないようにする以外の理由は考えにくい。その証拠に、政府はいまだ特例適用の要件すら、まともに説明できない。

 森法相は、黒川氏の定年延長について「重大で困難な事件の捜査と公判に対応するため」と述べたが、事件の具体的な内容は明らかにしていない。この点について、かつて東京地検特捜部に在籍した元検事らは改正案に反対する意見書で「過去に幹部検察官の定年延長の具体的必要性が顕在化した例は一度もない」としている。

 黒川氏の辞職という事態に至っても検察庁法改正に固執し、数の力で押し切ろうとすれば、取り返しのつかない政治不信を招くことになろう。

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