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英離脱、EU新時代

2020年2月4日
◆求心力取り戻す覚醒の機会◆

 英国が1月31日、欧州連合(EU)を離脱した。統合欧州の母体である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が1952年に6カ国で発足後、28カ国体制にまで拡大と深化を続けたEUが史上初めて縮小へと反転する。

 英政府が、離脱の瞬間を「祝賀の時」としたことが象徴的だった。もちろん、2016年の国民投票と昨年の総選挙で示された民意が実現する機会ではある。だが、47年に及ぶEUとの関係解消に、惜別の情が希薄なことも露呈された。

 英国はEUの原加盟国ではない。欧州統合の過程でも単一通貨ユーロにも、国境検問の廃止を定めたシェンゲン協定にも加わらず、統合深化には常に懐疑的だった。

 この冷淡さには、歴史的背景がある。EUの両輪である仏独が第2次大戦の荒廃を教訓に、欧州統合を平和共存の礎と考えたのに対し、大戦で侵略を免れた英国は自国に繁栄をもたらす「有益な市場」とみなした。統合への執着と関与の薄さが、EU離脱を可能にしたと言える。

 EUにとり10年代は試練の時代だった。ギリシャに端を発した欧州債務危機を皮切りに、中東アフリカからの難民・移民流入、相次いだテロ、EU懐疑を掲げたポピュリズムの台頭と、存立を揺るがす苦難が続いた。加盟国の結束は乱れ一時は解体論まで浮上する。

 その解体論が、英国のEU離脱手続きが難航する過程で沈静化に向かったのは、歴史の皮肉だろう。19年の欧州議会選で、EU懐疑派は予想ほど議席を伸ばせなかった。

 英国のEU離脱について、ドイツのメルケル首相は「(EUを)目覚めさせる経験」と述べる。欧州統合への求心力を取り戻す覚醒の機会にすべきだ。

 統合が飛躍的に進んだ1990年代、EUには市場統合や通貨統合という壮大な計画があった。国境検問や通貨の両替がなくなる世界とはどんなものか、人々をわくわくさせた。

 EUは現在、地球温暖化対策やデジタル時代のプライバシー保護などで世界をリードする立場にある。野心的な計画で市民を引きつけることができれば、前進へのきっかけとなろう。

 英国のEU離脱は、フランスによる66年の北大西洋条約機構(NATO)軍事機構からの脱退を連想させる。脱退は当時西側軍事同盟に衝撃を与えたが、冷戦終結など国際環境の激変を経て、フランスは2009年に完全復帰した。

 英国も今後、経済不振や連合王国の分裂など深刻な危機に陥る恐れが指摘される。国益が促せば、将来再びEUの扉をたたく時が来るかもしれない。その可能性も歴史は示している。

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