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陸地になった港

2024年1月21日
 最初、漁師が「潮が引いた。また津波が来る」と思ったのも無理はない。能登半島地震で海岸沿いの土地が隆起して、港が陸地になっている光景に驚いた。航空写真を見ると港の周辺も土地が隆起している。

 最大4メートルの隆起も観測された。そのおかげで津波の被害が抑えられた港もあったという。しかし今後のことを考えれば全く喜べない。港が使用不能になったため漁船が出せない。生活の手段を奪われたも同然だ。新たな陸地の外に新たな港を築くなら数年かかる。

 港内を掘削して水路を開くにしても半年はかかるらしい。普段はあまり耳にしない隆起という地質学の用語だが、実は本県の沿岸部に関わりが深い。例えば青島の「鬼の洗濯岩」。正しくは「青島の隆起海床(かいしょう)と奇形波蝕痕(はしょくこん)」という名称で国の天然記念物に指定されている。

 海中で出来た水成岩が隆起し、長い年月、波に浸食されて地層が現れたものだ。1662年の外所地震では、逆に清武川や加江田川河口周辺の地盤が沈下。津波もあって、周囲約32キロに及ぶ広大な田畑が海に没した。しかし江戸時代の中期には堤防の造成に着手。今では見事に田畑が広がっている。

 地形まで変える自然の膨大なエネルギーを目の当たりにすると、絶望的な感情に襲われる。だが一方で、過酷な災害に見舞われても不屈の根性で立ち上がってきた人々の労苦には頭が下がる。時間はかかっても、暮らしを取り戻す能登の人々の力を信じたい。

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