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方言の衰退は「あたれ」

2023年11月26日
 「あえちょる」は「落ちている」。「かっとしゅ」は「至る所」。国富町方言集作成委員会が刊行した「国富町の方言」は、お気に入りの一冊だ。930語のうち640語には例文が添えてあり分かりやすい。

 驚いたのは、宮崎市と極めて近いにもかかわらず知らない言葉が結構あることだ。思い出したのは、江戸時代の作家・式亭三馬の本に書かれていた当時の国内の言葉事情。それによると、江戸からわずか2キロ離れただけで江戸とは違う言葉が話されていたらしい。

 インターネットもテレビもラジオもなく「言葉の伝播(でんぱ)」が人の移動のみによってなされていた時代。ごくごく小さいそれぞれの地域で”生まれ育った”言葉が、他の地域のそれと交わることなく存続したことは当然といえば当然か。それは地元にとって誇りであり、宝だ。

 先日掲載された本紙を含む九州4紙による方言をテーマにした合同アンケートの結果は興味深かった。最大10点で尋ねた自分が使う方言への「好感度」と「誇り」について、いずれも本県が九州7県の平均を上回った。若年層の方が方言への愛着が強いという結果も。その愛着を持ち続けてほしい。

 「あたれ」とは、かの国富の方言で「惜しい」という意味らしい。標準語や新しい言葉が瞬時に電波や光に乗って行き渡る時代だが、そんな中で地域の歴史と文化に根差した方言が埋もれていくのは「あたれ」と思う(使い方はこれで合っているだろうか?)。

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