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大震災は天罰か

2023年9月3日
 日本資本主義の父と呼ばれ、来年には新1万円札の肖像画として登場する予定の実業家渋沢栄一。1923年9月の関東大震災後にその受け止め方を巡って小説家の芥川龍之介から激しい批判を受けている。

 新聞の談話で、渋沢は明治から速足で世界の列強に成り上がった日本人の慢心に触れ、震災には「ある意味で天譴(てんけん)(天罰)として畏縮(いしゅく)する」と述べた。これに対して芥川は天罰など信じられない、それは後ろめたいことをした人が思うこと、として反論している。

 「大震に際せる感想」という一文で、同じ被災者でも妻子を失った人がいる一方で家も焼かれなかった人もおり、こんな不公平な天罰などあるものか―という内容。その上で自然は誰彼構わず「我々人間に冷淡」であり、人間にも小さな生き物にも公平なものと指摘する。

 自然が人間の想定を軽々と超えることは、東日本大震災の津波や近年の台風被害を見ても明らか。だからといって被災者は運が悪く仕方がなかったと言われて納得するはずがない。芥川なら「不運とは適切な防災や避難策を尽くさなかった『後ろめたい人』が思うことだ」と反論するのではないか。

 渋沢の発言には乱れた風紀を戒める意図があったのだろう。だが、大きな自然災害が起きる度に「想定外」が安易に使われる弁明に接すると芥川の怒りが胸に落ちる。不運だったと言われる被災者をなくすために、改めて過去の自然災害から教訓を学びたい。

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