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色彩の消滅と自然環境

2023年6月24日
 本紙生活情報面の連載企画「色、いろいろ」を切り抜いているという方に時折出会う。近く200回を迎えるロングラン連載。さて皆さん、知っている色を聞かれてすぐに答えられるのはどれくらいだろうか。

 絵の具セットに並ぶ20~30色がせいぜい、という方が多いかもしれない。京都の染色家吉岡幸雄さんは著書に「色名が多いとは、すなわち人々の暮らしにとけこんで結びついていることの証左」と書いた。今きらめきを増している緑にしても一色(ひといろ)ではないという。

 茶味がかった岩井茶、柳の白っぽい葉裏を表す裏(うら)柳(やなぎ)、盛夏の緑茂るころに落ちる葉の青(あお)朽葉(くちば)など色相は止めどない。名前も風流。田植えを終えたばかりの季節は若苗色があふれている。こうした多彩な色彩を十把ひとからげに「緑」とする現代人。何ともったいないことよ。

 面白いことに、草木染に最も身近な緑色だが、色を出すのが案外難しいとか。葉緑素は極めて弱い色素であるため単独で緑を発色する染材がなく、黄色に青色を重ねて色の濃淡を出すしかないのだそうだ。昔の人の豊かな色彩感覚とともに、微細な色味を追求してきた職人の技にも驚くものがある。

 吉岡さんは伝統色の消滅に暮らしとの関連を挙げた。だが、これだけではないだろう。国際研究チームが温暖化によって海氷融解が加速するとの最新予測を発表した。動植物の命が奪われるたび自然界の色彩が一つずつ消えていく。環境破壊も無縁ではない。

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