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詩人が回想する父

2022年6月19日
 意外に知られていないが詩人の工藤直子さんは宮崎大学で詩を教えていた時期がある。自作の詩をテキストとして学生に思いつくまま感想などを書かせた。ある日読んだ作品は代表作の一つ「ねがいごと」。

 「あいたくて あいたくて あいたくて あいたくて きょうも わたげをとばします」。ある学生がパロディーにした。「あ、いたくて(中略)きょうも はなげをとばします」。さぞ工藤先生お怒りかと思いきや「これ傑作だわ」と感心したと講演で述べている。

 体の一部となるような詩に出合う大切さを説く工藤さんにとって、パロディーも解釈の一つに映ったのだろう。別の図書館での講話では、参加したある女性が「ねがいごと」の朗読を始めた途端に号泣。たぶん大切な誰かとの悲しい別れを思い出したのだろうと推測する。

 以前大好きな父を亡くした体験から、別れの悲しみが切実に理解できたからだ。物心つく前に生母を亡くし、戦後台湾から引き揚げて転居を繰り返した工藤さん。愛情深かった父と暮らした思い出をエッセー「とうちゃんと」につづっている。詩人の形成に父親の存在がいかに大きかったかが分かる。

 6月第3日曜日は「父の日」。直接感謝する母の日に対して、父の日は梅雨の最中にあるせいか回想の中でしっとりしているイメージがあった。だが近年は違う。働き方改革やリモート勤務などの普及で、自宅で家族と接する機会が随分と増えたお父さんだ。

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