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秤にかける命なし

2022年5月14日
 義理と人情を秤(はかり)にかけりゃ 義理が重たい男の世界~。往年の邦画ファンなら、この歌を聴くと日本刀を手に殴り込みをかける高倉健さんの姿を思い出すのでは。映画「昭和残侠伝 唐獅子牡丹(からじしぼたん)」の曲だ。

 劇中で流れる歌詞は違うが、レコードではこの歌詞になっている。誰しも生きていく中において、何かと何かをてんびんにかけなければならない局面に遭遇する。義理と人情だって、任侠の世界は別として日常では「重い方」はその時々のケースで変わるだろう。

 だが、どんなものをてんびんの片方に置いても、絶対にこちらの方が重くなるものがある。言うまでもない。「人の命」である。そもそも、秤にかけてはいけないものだ。よもや、命とカネを秤にかけたわけではあるまいが結果的にそうなってしまった末の大惨事である。

 知床半島沖で起きた観光船の沈没事故から、きょうで3週間。事故後の会見で「収益のために無理に出航させたことはない」と話していた運航会社の社長である。だがその後、安全管理規定の違反が相次いで発覚。命とカネを秤にかける以前に「人命を預かる」ことに対する意識の低さが露呈した。

 きのう国後島の海岸に女性の遺体が漂着していたことが分かったという。まだ乗客乗員のうち半数近くが発見されておらず、今回見つかったのがその中の1人ならいいのだが…。たとえ時間がかかってもいい、全員が「待つ人」のところへ帰れることを願う。

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