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誰が音痴って決めたの?

2021年6月8日
 誰でも子どもの頃は周囲を気にせず、好きな歌を大きな声で口ずさむ。ところが少し大きくなると、周囲からの余計な一言が自信を喪失させる。「おまえは音痴だ」。それからは人前では歌を歌わなくなる。

 小学校高学年のY君は音楽の歌唱の際、なかなか歌い始めない。先生が尋ねると「ぼくは音痴です」という。「誰が音痴って決めたの?」。さらに尋ねると「お父さんが言いました。お父さんも音痴です」。早速Y君に歌う楽しさと自信を付ける特訓が始まった。

 宮崎少年少女合唱団など合唱指導に長年携わり、先日85歳で死去した佐土原悟さんが自分史の中で、小学校教諭時代の思い出を記している。「Y君は自分で音痴と思いこみ、歌えない自分を自認している。したがって歌になれていないため歌う意欲が乏しい」と判断した。

 「四季の歌」を練習曲にして放課後個別指導。「コケコッコー」。鶏の鳴き声をまねして声域を広げ、合唱部の友達が手伝うなど特訓を重ねるうちに、ある日音程も完璧に歌えるようになった。みんなで拍手し、Y君を胴上げ。彼はその後、米国のある町の教会でボイストレーナーになったという。

 佐土原さんを知る人は、このようにいつも情熱的で工夫に富み、笑いに満ち、ひらめいたら即行動に移す指導を思い出すはずだ。本県を“合唱王国に導いた功労者が残した遺産は、技術そのものより、歌う喜びと歌を通じて人々がつながる素晴らしさだった。

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