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首相の本懐

2020年9月16日
 JR東京駅の中央通路に「浜口首相遭難現場」のプレートがある。1930年11月14日、浜口雄幸首相が右翼の男に撃たれて今年で90年。浜口を主人公とする城山三郎著「男子の本懐」に銃撃の様子は詳しい。

 「『ピシン』という音がしたと思うた一刹那、余の下腹部に異状の激動を感じた」。苦痛は激しかったが、駆け付けた医師に「男子の本懐です」と語っている。浜口は29年に首相就任。緊縮財政、金解禁やロンドン軍縮条約調印を進め、軍部や右翼の反感を買った。

 手術で一命を取り留めたが、回復を待たず国会答弁に立ち体調が悪化。5カ月後に退陣し、亡くなった。正義感の強い、信念の政治家として知られている。本懐とは本来の希望のこと。最近はあまり聞かないが、政治家らが信念の強さをアピールするため時々用いている。

 ”病魔”という凶弾に襲われた安倍首相は、どのような本懐を胸に秘めていただろうか。憲法改正や北方領土問題の解決などに挑んだが、成果を得られなかったことに無念はあるだろう。これから安倍政権の功罪は十分検証すべきだが、今は7年8カ月余りも日本を引っ張ってきた労をねぎらいたい。

 きょう新首相に指名される菅氏の本懐は、自民党総裁選が短くてあまり伝わらなかった。浜口は「眼前の利益のみに幻惑せられ百年の長計を忘れたならば、国の前途は知るべきのみ」と語っている。新首相も、目指す日本の将来像を存分に国民へ語ってほしい。

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