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小窓の奥に広がる世界

2020年9月11日
 明治維新前後に来日した外国人らが、西洋とは異質な日本文化に触れた感激を多く書き残している。トロイア遺跡の発見で知られるシュリーマンも一人で、最も驚き、感心した一つが小さな鉢の盆栽だった。

 いろいろな動物の形に仕立てられた盆栽を見て、「私が最も驚嘆したのはカエルの格好をした松だ。幹の太さを5インチまでにしたミカンの木も驚嘆だった」と記している。(依田徹著「盆栽の誕生」)。自然の景色を凝縮した魅力は、日本家屋に多い坪庭にも通じる。

 限られた空間に作り込む技術は狭い住宅事情が関係するが、日本人らしい美意識の大きな要素だ。生きた樹木と絵では芸術観が違っていても、みやざきアートセンターの「第10回記念みやにち夢ひろがる小品展」でも、日本人の得意技が遺憾なく発揮されていると感じた。

 小さいキャンバスの中をクジラが泳ぎ、南国の風景が広がっているかと思うと、アマビエがいて、精緻な抽象世界が広がる。作者らは画面が狭いほど、持てる限りの技術を投入することに情熱を傾けているようだ。大作ではあまり見られない多様性と実験的な試みが、絵を描く喜びの原点を教える。

 家の中に大作を掛ければ、その存在感は部屋の空気を支配する。小品は小窓のようだ。好きな時にのぞけばいい。佳品ほど、その先に広がる世界で遊べる。まだ自由な往来がはばかられる今だからこそ448点の世界に出かけてみてはどうだろう。13日まで。

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