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高下駄と厚底シューズ

2020年2月15日
 昭和初期の浅草で花開いた歌う「ドタバタ喜劇王」がエノケンこと榎本健一。座員、ダンシング・チーム、オーケストラを含めて総員150人余という一座の座長を務め、主演した映画も次々に大ヒットさせた。

 そのうちの一本が「エノケンの近藤勇」だ。銀幕狭しと暴れ回る喜劇王だが、中でも笑いを誘ったのは小柄なエノケンが高下駄を履いたとたんに無類の強さを発揮するチャンバラのシーンだった(古川隆久著「戦時下の日本映画―人々は国策映画を観たか―」)。

 スポーツ用品大手ナイキの「厚底シューズ」を巡り、規制の是非を議論してきた世界陸連は先月末、靴底の厚さ4センチ以下、反発力を生み出す埋め込みのプレートは1枚までなどの新ルールを発表した。市販済みのものは条件を満たし、五輪や代表選考レースで着用できる。

 厚底シューズを世界陸連が禁じると、英メディアが報じたことに端を発した騒動は一段落したがすっきりしない点も残る。「4月30日以降は、大会前に4カ月以上市販されていること」の解釈が判然とせず市販モデルに改良を加えたオーダーメードの靴はどうなるかなどのグレーゾーンも浮上した。

 新機軸の靴の威力は抜群だがエノケンの高下駄みたいに履けばだれでもが無条件に強くなれるわけではない。選手が日々練習を積んでこそ生きる厚底の特性だ。流した汗が無駄になるような規則の変更は避けたい。喜劇ならぬ悲劇のもとになりかねないから。

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