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TPP交渉参加 岐路みやざき

(上)農業

2013年3月17日
■大国相手守れるのか

 「農業がもうからなくなれば、山あいに住む人はいなくなる」。延岡市北方町の下鹿川地区でコメを作る松田富貴雄さん(71)は覚悟していたものの、15日の会見で環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の必要性を力説する安倍首相の姿に全身の力が抜けた。

 コメや牛・豚肉、乳製品など重要5品目の関税維持などを念頭に「農業は守る」と約束した安倍首相は同時に影響試算を明らかにした。もし守れなかった場合、つまり関税がなくなるとコメの国内生産額の3分の1が米国産などに置き換わり、損失額は1兆100億円に及ぶ。

 山とともに生きてきた松田さんは1964(昭和39)年の丸太輸入自由化による集落の衰退を目の当たりにした。「平場より生産効率に劣る下鹿川はひとたまりもない。人の営みが消え、田畑が荒れれば、いくら金をつぎ込んでも取り戻すことはできない」

 同じ中山間地の高千穂町押方の畜産農家、後藤公さん(83)は妻フユ子さん(77)と2人暮らし。月十数万円の年金は食費や医療費に消え、子牛出荷の収入が日々の暮らしにわずかな潤いを与える。後藤さんは「牛肉がどう取り扱われるかも分からない中での決断は、衆院選で自民党が掲げた公約と程遠い印象がある。公約もきっちり守れないのに、今後大国相手に農業を守れるのか」と疑問を呈す。

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 昨年10月、未曽有の口蹄疫被害を乗り越え、宮崎牛が全共連続日本一に輝いた。明るい光が差し込む中、口蹄疫で全頭殺処分を余儀なくされた新富町新田の酪農家、本部博久さん(35)は「再開のために工面した借金の返済も順調で、ようやく経営が軌道に乗ってきたのに」とため息をつく。

 TPPで乳製品にかかる360%の関税が撤廃されると、脅威となるのはオーストラリア産。国産の3分の1以下の価格になり、とても太刀打ちできない。JA宮崎経済連は実効性ある手だてがなければ、県内酪農家は8割以上が経営に行き詰まるとみる。

 本部さんは「関税がなくなれば酪農は終わり。再開した農家には若い人が多く、児湯全体で頑張っていこうという機運はしぼむ」と危惧する。

 異業種の力を結集して磨けば光る県内の農水産物の付加価値を高め、地域経済を成長させようとする県の目玉施策「フードビジネス」も頓挫しかねない。「試算を速やかに精査・分析し、国に農業を守るよう声を上げていきたい」と県農政企画課。対策本部を立ち上げたものの、政府からの情報が乏しく具体的な対策に着手できなかった県は、農家への影響を最小限に抑えるための対応を急ぐ。

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 地方の声を押し切る形で、政府はTPP交渉参加に踏み切った。交渉次第で本県経済の柱である農業をはじめ、暮らしに直結する食や医療などが大きな変革を迫られる可能性がある。県内関係者の間で戸惑いと不安、期待が錯綜(さくそう)する。

(上)農 業2013年3月17日付
(下)製造・医療2013年3月18日付

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