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実践!地産地消

実践!地産地消 肉の6次産業化3人衆

2013年11月11日
おいしさ追い求め
 県は本年度、「フードビジネス振興構想」をスタートしたが、それ以前から県内には肉の6次産業化へ向け積極的に取り組む人たちがいる。本紙地域統合面の寄稿連載「実践!地産地消」(第2木曜日掲載)の特別企画第2弾は、「あじ豚」「みやざき地頭鶏」「都萬(とまん)牛」というブランドの開発・生産者の3人が西都市大口川の「ミート工房拓味」に参集。MRT宮崎放送アナウンサー川野武文さん(46)の司会で、健康かつおいしい肉生産の工夫や6次産業化の課題などについて語り合った。本特集では、その座談会の要旨とともに、「都萬牛」開発の背景を掘り下げたルポ「志ある人生」、宮崎市のモデル、海汐祐希さん(34)による「体感コラム」を掲載する。(座談会動画のつづきはこちら

座談会参加者
山道義孝さん(川南町)「あじ豚」生産
中村秀和さん(宮崎市)「みやざき地頭鶏」生産
矢野安正さん(西都市)「都萬牛」開発
司会=川野武文さん(MRTアナウンサー)


 -6次産業化の先駆者の3人にまずは自慢の物品とともに、自己紹介をお願いします。

山道義孝さん

 山道 川南町で宮崎第一ファームを経営し、「あじ豚」のブランドで養豚生産をしています。また国道10号沿いの「ゲシュマック」という店で、「あじ豚」生肉を中心にハム、ソーセージなどの加工品も販売しています。加工品は約40アイテム。男の子が3人いますが、長男が農場の責任者で、加工品は東京やドイツで技術を学んできた三男が作っています。

 中村 宮崎市清武町でみやざき地頭鶏の飼育、解体に加え、加工品を生産。精肉と加工品の販売は全国展開しています。つまり生産から販売までを一貫して手掛けています。加工品は、塩だけで味付けした地頭鶏の炭火焼きが人気があります。2年がかりでたれを開発し、それに漬け込んだ商品を3種類作りました。

 矢野 西都市で動物病院をやっています。3年前の口蹄疫に伴う殺処分で牛や豚が地域から消えてしまって、再開をどうしようかと悩みました。赤身を目的とした脂肪の少ないヘルシーな牛肉を作ろうということで、3年前から取り組んでいて、ようやく今年になって加工、販売が始まりました。

 -その肉の味を出すためにどのような取り組みをしていますか。

中村秀和さん

 山道 あじ豚は、どこの養豚農家も普通に飼っている品種の豚。ただ、餌を替えたら肉味が変わるとの考えに立ち、特に最後の仕上げの餌にこだわっています。私たちはトウモロコシゼロの餌で、主原料はマイロ(コーリャン)、麦、キャッサバの3種類。この餌は、豚肉の脂を白く甘くします。おいしい豚肉は健康な豚でないと作れません。

 矢野 日本は牛肉自由化以来、国産を守るために和牛はサシを入れようということで進んできました。今の改良は、その方向しか向いていません。都萬牛も導入する牛は改良した和牛。要は飼い方、餌。牛も餌次第で、低脂肪でおいしい肉を作ることができるんです。宮崎牛の中にもサシの入った肉から赤身までバリエーションがあった方が消費者のニーズに応えられると思います。また、消費者の方を向いた生産をしないと環太平洋連携協定(TPP)時代には生き残れないと思います。

矢野安正さん

 中村 みやざき地頭鶏は県のブランド。うちはその中でももう一ランク高い商品です。ひなから出荷まで、抗生物質などを一切使っていない飼料を食べさせ、虫の幼虫や乳酸菌なども与えています。最初は結構リスクがあるかなと思っていましたが、すごく鶏の成長がいいです。健康な鶏でないと味がきちんとのりません。「安全安心」を前面に打ち出して、いいものを提供することにしています。

 -TPP交渉で日本の聖域である重要5項目の中に牛と豚が入っています。

 山道 県のTPPの影響の試算が出たとき、私は正直、がくぜんとしました。試算によると、県内にいま555戸くらいの養豚農家があるが、その23%(127戸)しか残らないという。私の場合は直販へ向かっていきました。「ゲシュマック」という店を2006年に新築しました。今後も直販というのが、生き残りの大きなキーワードだと考えます。

 -6次産業化は、言うのは簡単なんですが、これまで生産専門でやっていた人は、加工まではなかなか踏み出せないのでは。普通の農家は個人経営で、流通にはプロがいて、商社もいます。

 山道 難しいと思います。私は1989年に大きな失敗をしています。販路をつなぎきれませんでした。行き着いた結論が「ゲシュマック」。自分で作った物は自分で売ればいいんだと。年間出荷目標頭数は7千頭ですが、うち25%を直売するのが当面の夢。高速道路が北へ向かって延びているので、福岡・博多を目指して店舗を増やしたい。将来は50%まで直販するのが夢のまた夢です。もし量販店につなげられれば、あっという間に売れますが、利益率は少なくなります。

 -世の中、体動かして物を作るところにお金が落ちません。それを右から左へ流すような流通や卸がほとんど取ってしまいます。

川野武文さん

 矢野 流通に詳しい人何人かに会っていますが、「この肉はおいしいが、九州で売るのは難しい」と言われました。この肉を買えるある程度の所得水準がないと駄目だ、と。

 中村 地頭鶏の場合は、数が間に合わないような状態。販路先は、県や国、企業の催す商談会に積極的に出掛けて行き、東京や大阪、北海道であろうと出向いて、アピールする。そうすることで、きちんとつなぎができます。

 -宮崎大農学部の入江正和教授がおっしゃるには、生き残りは消費者との関係を築くことが一番の活路だと。消費者との関係を築くにはどうすればいいでしょうか。

 山道 やはり、お客さんがお客さんを呼んでくれてリピーターがいるというのがつながりだろうと思います。

 中村 おいしい肉を生産することが、リピーターをつくることになると思います。それには、生産面をきちんとするのが一番大事なこと。そこがちょっと崩れると、すべて崩れてしまいます。

◇座談会に寄せて
品質にこだわりを

 【入江正和・宮崎大農学部教授】わが国の畜産が生き残ってゆくためには、日本の特質を生かすことが大切と考えます。それは、品質(安全・安心、おいしさ)にこだわりを持つことです。飼料費、人件費、土地代など数々のハンディがある中で、有利な点は日本人の消費者が身近にいることです。これをうまく活用し、日本人の嗜好(しこう)に合った多様で、おいしい食肉を生産することが、もっとも重要だと思います。

 やまみち・よしたか 1949年、川南町生まれ。高鍋農高卒業後、1年間、埼玉県の養豚会社で研修。以降、45年間、養豚一筋。2006年にレストラン・直売店「ゲシュマック」開店。65歳。

 やの・やすまさ 1951年、西都市生まれ。宮大農学部獣医学科卒。農業共済勤務を経て、87年に西都市に開業。口蹄疫禍後、「都萬牛」開発に携わる。「ミート工房拓味」を4月に開店。62歳。

 なかむら・ひでかず 1951年、宮崎市清武町生まれ。高校卒業後、信販会社に勤務。11年前に脱サラし、みやざき地頭鶏の生産をスタートする。来年、清武町に直売店を開設予定。62歳

 かわの・たけふみ 1967年、兵庫県生まれ。90年、MRT宮崎放送に入社。人気ラジオ番組「GO!GO!ワイド」などのアナウンサーとして活躍中。愛称は「武坊」。46歳。


◇ルポ・志ある人生
畜産の在り方見直す


 西都市大口川に動物病院を開業する矢野安正さん(62)は、獣医師になって丸40年になる。白衣に白の長靴姿で自ら白の普通ライトバンを駆って、西都・児湯地区内の畜産農家を往診に回るのが日課だ。往診先は100軒に及ぶ。

 和牛生産農家の苦楽を長年見てきた矢野さんの口を突いて出る言葉は、「農家は今も昔も生かさず殺さず」だ。「特に繁殖農家は労働時間に見合った賃金も得られていない。後継者が少ないのも、農業がもうからなくて魅力がないからだ」と言い切る。

 そんな矢野さんを「都萬牛」開発へ向かわせる出来事が起きた。2010年の口蹄疫である。生産者のこの上ない苦渋を目の当たりにし、牛豚の殺処分に携わる中で、「従来と一緒の畜産をしていたんでは駄目だ」と意を決した。

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 「日本のトップブランド牛は、サシ(脂肪交雑)を追求している。20年前からサシの入りもかなり進んできて、今後10年、20年したら、半分以上が脂という肉が増えてくるだろう。そうなったときに私たちが食べられるのか」

 そうした矢野さんの問題意識に共鳴する和牛生産農家らと、10年11月から「食べやすい赤身牛肉」である「都萬牛」作りへ乗り出した。賛同し出資する農家は現在3人。生まれたばかりの赤ちゃん牛を含む和牛196頭を殺処分した鍋倉隆一さん(55)=木城町岩戸=も、その一人だ。

 「サシ入りの牛肉は肥育段階でビタミンAをカットし、牛にむごいことをしている。もっと健康的に飼って、ヘルシーでおいしい牛肉を作りたい」と、鍋倉さんは都萬牛生産に踏み切った理由を語る。

 都萬牛は、子育てが下手だったり乳量が少なかったりして繁殖に不向きな1産ないし2産の和牛を7~9カ月肥育したものだ。一般の和牛と肥育する上で決定的に違うのは餌だ。家畜の肉質を専門にする宮崎大農学部の入江正和教授(59)の指導を受けながら、餌を変え、うま味を追求してきた。地場産の茶葉と焼酎かす、米ぬかを与えることで、赤身のうまい牛肉を生み出すことに成功した。2年半を要した。

 矢野さんが次にやったのは都萬牛の牛肉や加工品を売る直売店の建設だ。私財をなげうち、「ミート工房拓味」の屋号で今年4月から動物病院の向かいに開業している。

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 「矢野先生は10年以上前から、『このままじゃ農家はやっていけない』と言ってましたね」。そう証言するのは、昨年まで20年間、矢野さんの往診の助手を務めた小浦美代子さん(59)だ。

 矢野さんは2年前、テレビで福岡県の中村学園大の学長の発言を聞いて、得心した。同学長は「日本の1次産業の産品は1年間に74兆円消費されるが、1次産業者が手にするのはそのわずか13%(9.6兆円)」と言ったのだ。

 「これが農業の現実」と言う矢野さんが、口蹄疫を機に変えようとしているのはまさにこの構造なのである。

 「TPP時代に私たちが生き残るには、自分たちの作ったものを自信を持ってアピールし、所得を増やすしかない」と矢野さん。都萬牛は消費者の根強い支持を得て、直売店では採算ラインである月に3頭分以上の肉を売る。この売り上げをもっと伸ばすことで、都萬牛の生産農家を増やし、利益還元を実現できると、矢野さんは考えている。(地域情報部長・外前田孝)


◇体感コラム
モデル 海汐祐希さん


海汐祐希さん

 安心・安全は当たり前。生産者がこだわって作った自慢のお肉には生産者の夢と希望が詰まっていました。

 「あじ豚」は、山道さん親子で築き上げたクリーンな豚肉です。透き通るピンク色で、臭みがなく、甘みがあるのが特長。自家製のしゃぶしゃぶタレは肉のうまみを十分に引き出し、あじ豚本来の味を楽しめます。ハムやソーセージなどの加工品も種類豊富で、かめばかむほど味に深みが出てきます。イチオシはポークジャーキーです。

 中村さん生産の「みやざき地頭鶏」は、ひなのころから完全無農薬の餌を与えて育てています。まさに健康そのもの。肉質も他の地鶏とは違い、弾力があり、肉の甘みが食欲をそそります。炭火焼きは柔らかく、歯応えもあり、ジューシー。2年かけて作り上げた漬けダレはみその風味が鶏肉と合い、新たな地頭鶏の味を提案してくれています。

 矢野さんらが開発した「都萬牛」は、赤身の多い牛肉で黒毛和牛の常識を変えてくれます。日本一に輝いた宮崎牛ですが、サシの多いA5ランクのお肉は量が食べられません。その点、都萬牛の赤身は程よい脂と弾力があり、とても食べやすいです。塩だけで牛肉本来の味が堪能できます。加工品の中では牛肉チャーシューがお薦めです。

 おいしいお肉を作りたいという信念から生まれた3人衆の肉。その信念は、肉そのものの味が物語っていてくれているように感じました。幸せな時間を提供してくれた3人のお肉をぜひ、あなたの舌で体感してみてください。

 うみしお・ゆき 1979年、日向市生まれ。東京で芸能活動後、帰郷。2006年に芸能モデル事務所「海汐プロダクション」を設立。婚活アドバイザー、県社会教育委員としても活躍。34歳。

【写真】(左)川南町の「あじ豚」、(右上)西都市の「都萬牛」、(右下)清武町の「みやざき地頭鶏」

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