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デンマークの高齢者介護視察記

(上)理念

2012年9月12日
■できることは自分で 過剰介助せず自由尊重

 高齢者福祉の先進地として知られる北欧のデンマーク。老年期を「第三の人生」と位置付け、介護が必要になっても自立して生活できる制度が整う。宮崎市の介護施設で勤務後、理念や手法を学ぶためデンマークへ渡り、介護付き住宅で働いている女性を訪ねた。(報道部・新坂英伸)

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 首都コペンハーゲンから列車と車で西へ約2時間半。人口約45万人の地方都市・ノースフューン市に到着した。8月下旬だが少し肌寒い。いつみ・ラワーセンさん(47)は18年前に現地の障害者施設で働いている男性と結婚し、現在はこの町の介護付き住宅でヘルパーをしている。

 午前8時ごろ、毎朝シャワーを浴びるのが日課という男性(82)の部屋にいつみさんと入った。男性は脳卒中の後遺症で右手、右足が不自由で会話も難しいが、いつみさんは必要以上に手を貸さない。男性が自分でベッドから起き上がり転倒せずに歩いて浴室に入るまでは見届けただけ。右手が届かない左肩や左手を洗う時のみ介助した。

 「できることは自分でやってもらう。何ができて、何ができないかを観察する力がヘルパーに必要」。いつみさんはデンマークの介護の理念をそう説明する。

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 この住宅は以前、定員60人の特別養護老人ホーム(特養)だったが、1995年の国の法改正で定員を30人に減らし、個室を65平方メートルに広げた。室内には居間と寝室、浴室があり、日本の特養やグループホームよりも広い。食事ができる共有スペースもある。

 いつみさんの働く3階には12部屋あり、24時間体制でヘルパーが常駐。認知症やパーキンソン病の人らが暮らす。住宅費や食費、ヘルパーの利用料を含めて1カ月1万1千クローネ(約14万円)で生活できる。低所得者には入居料を軽減する制度もある。

 個室には住所が割り当てられ、住宅として扱われる。全ての部屋にテレビや自宅から持ってきた家具が置かれ、壁には家族の写真や絵が飾ってあった。いつみさんは「部屋に入る時は必ずノックする。個人宅を訪問する気持ちで介護に入る」と話す。

 入浴やレクリエーションなどのスケジュールはないため、住民たちは自由に過ごしている。

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 1人で屋外に出る住民も多い。身長や体重、手足のまひに合わせた歩行器が市から支給されるため、転倒のリスクが少ないからだ。

 外出を制限すれば転倒のリスクは減るが、筋力が落ち寝たきりにつながる恐れもある。転倒して骨折しても、自分の意思で動いたのであればヘルパーは責められない。

 ヘルパーと准看護師の資格を持つビヤッテ・モア・アロンソさん(57)は「過剰な介護が原因で、高齢者の残された機能を奪うこともある。自立した暮らしを支えたい」と述べる。

【写真】介護付き住宅内を住民と歩くいつみさん。男性は右手、右足にまひがあるが、歩行器を使って自分で移動する=デンマーク・ノースフューン市

(上)理 念2012年9月12日付
(中)待 遇2012年9月13日付
(下)1人暮らし2012年9月14日付

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