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法廷の現場から~裁判員裁判3年 宮崎

(上)死刑判決

2012年5月4日
■「心に一生の負担」

 裁判員裁判が始まって3年が経過し、今月から見直しの時期に入る。これまで難解とされてきた司法と市民の距離が近づいたとの評価もある一方、心理的重圧や時間的制約など課題も指摘され始めた。県内の裁判員経験者や司法関係者の話を聞きながら現状を見詰め、今後を考えていく。

■重大事件対応に課題

 裁判員席の小型モニターに映し出された写真は今でも目に焼きついている。土中に埋められた乳児の遺体を掘り起こした現場。「雨でできた穴の水たまりに赤ちゃんが浮いていた。たまらんかったです」。元裁判員の男性は震えた指で目頭を押さえた。あれから1年以上が過ぎた。宮崎市の自宅で長男と妻、義母を殺害したとして殺人などの罪に問われた奥本章寛被告(24)に対し、県内の裁判員裁判で初めて死刑判決を下すまでの日々を、男性はかみしめるように語った。

 うっぷんを募らせた義母だけでなく、なぜ妻と長男をあやめたのか。質問しても「分からない」と繰り返す被告。人ごとのような態度に「本当に反省しているのか」といら立ちを募らせた。「死刑は当たり前」。そんな感情が頭をもたげてきたが、6日目の論告で検察側がモニターに示した「死刑」の文字が重圧となってのしかかった。

 最終評議の日。投票で死刑が決まり、各裁判員は下を向いて押し黙っていた。最高裁が示した死刑判断の根拠となる永山基準に沿って「結論は間違っていない」と思う理性と、「私たちの判断で人が死んでいいのか」という感情が胸の中で渦巻く。涙があふれた。被告は控訴棄却で上告中だが、「終身刑があれば選んでいた。死刑執行されても一生心に負担として残る。重大犯罪はプロの裁判官に委ねるべきだ」と切に求めた。

   ◆     ◇


 宮崎市で公証人を務める小松平内さん(62)は2000~04年、宮崎地裁の裁判長として3度の死刑判決を言い渡した。永山基準だけでなく似た事件の裁判例と比較し、陪席裁判官と徹底した議論を重ねる作業に時間を費やした。

 「結論は一個人としての感情を殺し、冷徹な判断をしなければならない」と、プロの裁判官に求められる使命を言う。一人の人間として心が抑えられない時もあった。宮崎市の連続女性強盗殺人事件で01年に石川恵子死刑囚(54)に言い渡した判決文の朗読中、胸が詰まり声がうわずった。被告の境遇と被害者への思いがこみ上げてきたからだ。その時の心境を多くは語らないが、決断の裏にある苦悩をうかがわせた。

 裁判員による判決について小松さんは「死刑判決を下す悩みを抱えた裁判員にとって、死刑制度の是非を主体的に考えるきっかけになる」と意義を感じる一方、これからの裁判員裁判の流れにも注目。「重大事件で事実の有無を争うケースが県内でも予想される」と、裁判員の重要な仕事の一つである「事実認定」が難しい事件の発生もありうるとし、「裁判員の悩みはさらに深くなる。制度の長所と短所を比較してどう改めるのか、あとは立法政策の問題だ」と経験則を生かした改善に期待する。

【写真】死刑判決後、記者会見で重圧について語った裁判員経験者。重大犯罪の審理はプロの裁判官に委ねるよう求めている=2010年12月、宮崎市

(上)死刑判決2012年5月4日付
(中)量刑判断2012年5月6日付
(下)公判前整理手続き2012年5月9日付

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