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みやざき考福論

【第1部・ランキング狂騒曲】(1)古里

2017年1月31日
豊かな暮らし山あいで実感

 年の瀬を迎えた椎葉村尾前地区。底冷えのする中、浄行寺の3代目住職・尾前賢了(けんりょう)さん(53)が掃除をしながら新年の準備に黙々と取り組んでいた。山あいの集落には清流のせせらぎだけが響く。辺り一帯が大自然。20代のころ経験した都会の便利さはないが、「山の食材や四季折々の美しさがある。自然の恵みにあふれた日常が幸せ」。尾前さんは笑みをこぼす。

 妻幸代さん(44)、小学4年の次女歩美さん(10)、母迦代(かよ)さん(77)と4人暮らし。住職の傍ら近くの湧き水をろ過してボトル詰めし、注文販売しながら収入の足しにしているが、「生計を立てるのは大変」。ただ、身の回りには「買えないもの」がそろう。

 山や川は旬の食材にあふれ、ヤマザクラやイチョウが山肌を染め上げて季節の移ろいを知らせてくれる。「自然に生かされる暮らしは、とてもぜいたく」

◇     ◇

 大学卒業後、大阪の司法書士事務所で働いた。寺の跡を継ごうと26歳で一時古里の椎葉に戻ったが、都会への憧れを捨て切れず再び大阪へ。しかし、当時住んでいた地域は光化学スモッグが多発。生活できる場所を求めて関西の田舎を回っていたら、「古里の素晴らしさに気付いた」。帰郷したのは30歳だった。

 古里は今、活気が失われていると感じる。地区には現在、50世帯ほどが生活し、住民の半分以上が高齢者。地元の尾向小には30人ほどの児童がいるが、以前はもっといたという。林業や建設業といった仕事はあるが、安定を求めて若者たちは離れていく。

 「生活するためには稼がないといけない。でも、お金の先にあるのは物質的な豊かさだけ。それが全てではない」。尾前さんは力を込める。

 正月を実家で迎えようと、宮崎市内の短大1年の長女菜奈さん(19)と延岡市内の高校1年の長男天了(てんりょう)さん(16)が久しぶりに帰省した。家族がそろうこともかけがえのない時間。「当たり前の暮らしの中に、幸せは見つけられる」。尾前さんは、過疎地で生きる魅力を次世代に伝えたいと考えている。

◇     ◇

 「経済的豊かさ」から「心の豊かさ」へ-。ここ数年、繰り返し語られてきた言葉だ。

 「幸せの国」ブータンの暮らしぶりを伝えている福井市のNPO法人「幸福の国」の野坂弦司理事長も、「お金が満ち足りれば幸福とは限らない」と指摘。国内総生産(GDP)の追求は物質的な豊かさを生んだ一方、国民の格差を広げ自然破壊も招いたとして、「人間本来の幸せから離れている」と持論を述べる。

 人によって幸せの形は違う。近年は、生活や教育、文化などさまざまな指標で都道府県をランク付けしたり、独自に指標を作ったりして、幸せの答えを探す取り組みが目立ってきた。そして本県も、同じように幸せを求めて動きだしている。

×     ×

 時代の行き詰まり感は一層強まり、経済に代わる価値として幸福が注目されている。本県も人口減少や少子高齢化により先行きは見えないが、未来を照らす「幸福の種」が足元に埋もれているのではないか-。第1部では、幸福をめぐり都道府県のランク付けが活発化している現状を追う。

【写真】山あいの集落で自然の恵みに感謝しながら生活する尾前賢了さん(左から2人目)。「暮らしの中に幸せがある」と語る=椎葉村尾前

第1部~ランキング狂騒曲~(1)古里2017年1月1日付
第1部~ランキング狂騒曲~(2)幸せの指標2017年1月3日付
第1部~ランキング狂騒曲~(3)福井【上】2017年1月4日付
第1部~ランキング狂騒曲~(4)福井【中】2017年1月5日付
第1部~ランキング狂騒曲~(5)福井【下】2017年1月6日付
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