完全燃焼「悔いなし」
最後の表彰台に上がった。その表情はすっきりとした笑顔だった。「120%くらい(自分の力を)出せたと思う。悔いはない」。9日行われた岩手国体成年男子400メートル自由形で、3位入賞を果たした延岡市出身の松田丈志選手(セガサミー)。自分らしい力泳で、ラストレースを飾った。
リオデジャネイロ五輪男子800メートルリレー銅メダルメンバーの小堀勇気(石川)、江原騎士(山梨)選手に挟まれてスタートし、2人に引っ張られるかのように序盤から飛ばした。終盤の失速も最小限にとどめ、4位との差は0・01秒。「力を出し切ることに集中した。いろんなものが後押ししてくれたような気がする」
北京とロンドン五輪ではバタフライでメダルを獲得したが、もともとは自由形が専門。400メートルも東海中3年の時に国体に初めて出場し優勝、その後日本選手権で7連覇した。「原点」とも言えるこの種目で、さまざまな思い出をかみしめながら泳ぎ切った。
「(久世由美子)コーチはここ数日寂しそうだったけれど、勝負にはこだわる人。表彰台に上がれよとプレッシャーをかけられていた」と笑いながら明かした。
32歳のベテランにとっては決勝に残るだけでも十分評価されるはずだが、最後まで自分のベストを尽くすと気を緩めなかった。
ゴール後、天井を見上げハーッと息をはいた。江原、小堀両選手が寄ってきて健闘をたたえ合う。名残惜しそうに一番最後に水から上がった松田選手。プールと観衆に深々と一礼した後、スタート板をポンポンとたたいた。「最後に国内で泳ぐ姿を見てもらいたかった」と、今国体を引退試合に選んだ理由を話していた。その勇姿を見終えた観客からは温かな拍手が鳴りやまなかった。
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20歳で挑んだアテネ五輪から今年のリオ五輪まで、数々の栄光を手にした一方、スポンサーの打ち切りや年齢との闘いなど、さまざまな浮き沈みもあった。それでも「常に自分のベストを尽くし、自分との勝負をすることが、水泳を通し学んできたこと」と、自分を超えるための闘いに挑み続けてきた。
今年1月1日の東海スイミングクラブ。真っ暗なうちから始まった毎年恒例の初泳ぎには、いつものように会員の子どもたちと一緒に泳ぐ松田選手の姿と、大きな声で指導する久世コーチの姿があった。黒板には久世コーチが書いた今年の抱負が記されていた。「“挑戦” 己に克て」
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五輪での計四つのメダル獲得をはじめ、日本競泳界で数々の実績を残し、この日現役生活を終えた松田選手。挑戦し続けた28年にわたる競泳人生を振り返る。
【写真】ラストレースとなった競泳成年男子400メートル自由形の決勝を終え、(右から)江原、小堀選手と健闘をたたえ合う松田選手=9日午後、盛岡市立総合プール
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