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超高齢クルマ社会を生きる

(1)遺族

2016年1月12日
「危険な運転」なぜ

 高齢化の影響は車社会にも及んでいる。2015年10月末時点で、県内の65歳以上の免許保有者は19万人を超え、10年前から1・5倍に増えた。免許更新時の認知機能検査で「認知症の恐れがある」「認知機能低下の恐れがある」と判断された高齢者は、約7800人(14年)。そんな現状を映し出すように、高齢ドライバーの事故は増加傾向にある。なぜ高齢者の事故は増え、どうすれば防げるのか。“超高齢クルマ社会”を生きるわれわれに課題が突き付けられている。

唐突に別れ 苦悩の日々

 六畳の和室の一角を、仏壇とその周囲を彩る花束が埋めていた。「遺影の中の妹と目が合うと涙が出るので、あまり見ないようにしているんです」。宮崎市内に住む藤本優さん(68)は、妹・みどりさん=当時(66)=の遺影に合わせた手を解き、こうつぶやいた。

 昨年10月28日、みどりさんの命は唐突に奪われた。

 軽乗用車が宮崎市高千穂通りの歩道を約700メートル暴走、通行中の男女6人が次々とはねられた。みどりさんを含む2人が犠牲となった。

 運転していた川内實次容疑者=危険運転致死傷容疑で逮捕=は、73歳の高齢者だった。鹿児島県の自宅から宮崎まで1人で運転。県警は事故原因を「てんかん発作の影響」としたが、認知症も患っていたとみられている。

 優さんと妻・洋子さん(68)は、搬送先の病院で目にしたみどりさんの姿が、今も脳裏から離れない。

 顔は傷だらけで、口や鼻、耳からも出血。頭蓋骨や腰骨など全身の骨が折れていた。折れた肋骨(ろっこつ)に圧迫された肺が、通常の4分の1ほどに縮んでいることも医師から告げられた。「即死と分かるほどの状態」だった。

 それでも、集中治療室では懸命な心臓マッサージが続いた。「ありがとうございました。これ以上は、もう…」。優さんは絞り出すように医師にそう伝えた。

□     ■

 高齢化が車社会に暗い影を落としている。

 県内で交通事故が減り続ける中で、「65歳以上の運転者が加害者となる事故」に絞ると増加傾向にある。2005年に約1500件だった事故件数は10年に2千件を超え、13、14年は2100件台で推移。高齢ドライバーの事故は今や全体の5件に1件を占め、昨年1~11月末までの死者は16人を数えた。

 何の前触れもなく遺族となった優さんは「いなくなったことを、どうやったら受け入れられるのか」と苦悩の日々を送る。

 事故は、優さんが現場近くの旅行代理店にみどりさんを車で送った約50分後に起きた。いつもなら帰りも車で送るが、みどりさんは「健康のため」と歩いて帰った。「なぜ1人で帰してしまったのか」。そんな思いにとらわれ続ける。

 川内容疑者に対し、「なぜ危険と分かっていて運転し、家族はなぜ見過ごしたのか」との疑念は消せず、日常のふとした場面で胸をえぐられるような寂しさに襲われる。

 事故から約1カ月後、優さんは代理人を通し、「報道機関の取材に対する回答」として「手記」という形で胸の内を打ち明けた。手記を出してなお、本紙の取材に応じたのは、「事故による悲劇を少しでも減らすために、遺族として何かできれば」と考えたからだ。優さんは言う。「事故は誰にでも起こる可能性がある。私たちと同じような思いをする人がこれ以上生まれないことを祈っている」

【写真】妹・みどりさんの遺影に手を合わせる優さん。寂しさや無念さ、加害者への怒りが今も胸に残る=宮崎市

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