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宮崎牛の一生

(1)誕生

2014年4月11日
■死産は経営、精神的痛手

産んだばかりの子牛をなめる母牛の「きくの721」。子牛はこの後、2時間ほどかけて自分の脚で立ち上がった=串間市串間
 全国和牛能力共進会長崎大会(2012年)で連続日本一を果たし、全国のレストランや家々の食卓を彩る県産最高級牛肉「宮崎牛」。しかし宮崎牛がこの世に生を受け、農家の愛情を受けてすくすく育ち、最終的に人間の命をつなぐ肉となっていく過程は県民にもあまり知られていない。肉以外の骨や皮も身の回り品に生まれ変わり、人の役に立っている。その誕生から、牛肉となってその使命を終えるまでを、農家の日常を交えながらたどってみたい。

 「よし頑張れ。いいぞ、いいぞ」。串間市串間にある谷口畜産で蓑輪康広場長(41)が励ます中、繁殖和牛の雌牛「きくの721」の出産が始まった。陰門から茶色の液体が出る1次破水の後、羊膜に包まれた2本の前脚がゆっくりと現れ、頭が見えてきた。

 子牛はうつぶせで出てくるのが正常だが、あおむけの体勢だったり、後ろ脚から出てくる逆子だったり、アクシデントが付きもの。時には農家が脚や頭にロープやベルトを掛けて引っ張り、体が大きければ滑車なども使って手助けをする。子宮がねじれて手に負えないケースなどは獣医師の出番となる。

 それでも事故は避けられない。串間市を含む南那珂地域では年間5300頭の出産があるが、200頭が産声を上げることなく命を落とす。母牛が妊娠中健やかに過ごせるよう心を砕く農家にとって、待望していた子牛が死産となれば経営的、精神的に二重の痛手となる。元気に生まれるよう近隣農家は結束し、夜中が多い出産にもできる限り立ち会う。

 分娩(ぶんべん)にかかる時間は平均1~2時間。きくの721は1時間ほどで無事に終わった。難産になると、脳に血液を流れやすくするため子牛の後ろ脚をつかんでつり下げたり、心臓マッサージを施したり、農家や獣医師による手厚いフォローが待っている。へその緒も手際よく消毒される。

 生まれたての子牛は1~2時間、おぼつかない足取りで立ったり倒れたりを繰り返し、自分の脚で懸命に立ち上がろうとする。その間、ぴったり寄り添う母牛がその全身をなめ、血行を促進させる。最初の関門は免疫力を高める初乳をスムーズに飲めるかどうか。うまくいかなければ、農家が子牛を母牛の乳房に導いたり、初乳と同じ成分の粉ミルクを与えたりする。

 一仕事を終えた蓑輪場長はきくの721に甘える子牛に目を細めた。繁殖雌牛170頭、肥育牛350頭を養う大規模農場のため日常から出産に追われ、不規則な生活を10年近く続けている。「生き物相手の仕事で苦労も多いが、生まれてくる子牛は人間と同じようにかわいい。やりがいは大きい」と話す。

【写真】産んだばかりの子牛をなめる母牛の「きくの721」。子牛はこの後、2時間ほどかけて自分の脚で立ち上がった=串間市串間

(1)誕生2014年3月27日付
(2)種付け2014年3月28日付
(3)初期飼育2014年3月30日付
(4)農家の一日2014年3月31日付
(5)身だしなみ2014年4月1日付
(6)競り市2014年4月2日付
(7)落札2014年4月3日付
(8)品評会2014年4月4日付
(9)肥育農家2014年4月5日付
(10)肥育前期2014年4月6日付
(11)霜降り2014年4月7日付
(12)出荷2014年4月8日付
(13)解体2014年4月9日付
(14)格付け2014年4月10日付
(15)レンダリング2014年4月11日付

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