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第3部 挑戦者たち(1)再起

2012年9月13日
■若手の後押しで決意
 2010年5月20日、朝の日課となった見回り中、西都市茶臼原の和牛肥育農家黒木輝也さん(65)は、ある1頭の前で足を止めた。前日夜の餌がほとんど減っておらず、熱は41度あった。牛舎は、既に口蹄疫が発生していた高鍋、新富町との境にある。「うちにも来たか」。覚悟を決めて家畜保健衛生所に電話を入れた。

 飼育していた牛198頭の埋却が終わると、せきを切ったように涙があふれた。牛のこと、県外に住む息子や娘のことを妻と2人で止めどなく語り合った。

 西都市で感染疑い1例目だったこと、丹精した牛を守りきれなかったこと―。終息直前、同市であった畜魂祭に足を運んだが、「皆から見られている気がして逃げ帰るように会場を出た」。自責の念に押しつぶされそうな日々が続いた。

◇    ◇

 「農家の会合にも競り市にも輝也さんの姿がない。そのことが歯がゆく、存在の大きさも感じた」

 黒木さん方から300メートルほどの距離に農場を構える肥育農家大崎貞伸さん(34)はそう振り返る。

 6年前に家業を継いで以来、黒木さんを牛飼いの「師匠」として仰いできた。枝肉成績が伸び悩めば「一から教えるが」と“企業秘密”である餌の配合も包み隠さず教えてくれた。埋却地を見つけられず途方に暮れていた時には、快く畑を提供してくれた。

 物心つく前からわが子のようにかわいがられてきた金丸隆美さん(28)=同市=も「枝肉の上物率も長年県内トップクラスで、地域の農家の目標だった」とその背中を追い掛けてきた。

 復帰を願う大崎さんら若手農家は、競りが終わるたび黒木さん方に立ち寄り、軒先で言葉を交わした。「いい牛が買えたよ」「早く牛を買わんと焼酎が一緒に飲めんがね」。軽口を交えながら、根気強く。それは、黒木さんが牛を再び導入する11年3月まで続いた。

◇    ◇

 今年8月23日、小林市の小林地域家畜市場であった第10回全国和牛能力共進会(10月25?29日、長崎県佐世保市など)の本県最終選考。7区(総合評価群)肉牛代表の一角を勝ち取った黒木さんは、真っ先に感謝の思いを口にした。「若い子に背中を押してもらったからここに立てた。一人じゃ始められんかった」

 代表牛となったのは、西都市で殺処分を免れた母牛から生まれた「美穂正」。口蹄疫からの復興を象徴する出自であり、黒木さんのモチベーションをこれほど駆り立てる牛はいない。

 晴れ舞台に立つ師匠を、大崎さんはまぶしそうに見詰める。「次に続く者たちのために、輝也さんに手本を見せてほしい」

×    ×

 開幕まで1カ月余りとなった第10回全共。県代表牛28頭を送り出す農家、技術員らは仲間や地域との絆を力に変え、あるいは口蹄疫をばねに連覇に挑む。牛と人の数だけ、全共に情熱を傾ける訳がある。

【写真】口蹄疫での苦悩、若手農家への感謝―。さまざまな思いを胸に全国和牛能力共進会に出場する黒木輝也さん=西都市茶臼原

第3部 挑戦者たち(1)再 起2012年9月13日付
第3部 挑戦者たち(2)父 子2012年9月14日付
第3部 挑戦者たち(3)ブラッシング2012年9月16日付
第3部 挑戦者たち(4)兄 貴2012年9月19日付
第3部 挑戦者たち(5)父の背中2012年9月20日付
第3部 挑戦者たち(6)支 え2012年9月22日付
第3部 挑戦者たち(7)好敵手2012年9月23日付

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