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いのち乗せて ドクターヘリ運航1年

【上】現状

2013年4月18日
■中山間地医療に光 医師ら増員、環境充実

 本県の救急医療の一翼を担うドクヘリの運航が始まって1年。医師の偏在や不十分な道路網整備などによって医療の地域格差が深刻化している本県に、機動力を発揮するドクヘリ導入は多くの恩恵をもたらした。救命率向上にさらに期待が高まるドクヘリの現状と課題を追った。

 「ドクヘリがなければ今ここにいない。どれだけ感謝しても足りない」。高千穂町岩戸、農業工藤武毅さん(79)は2月25日、農作業の帰路トラクターで横転し、地面に放り出された。肋骨(ろっこつ)、座骨、尾骨などが折れ、体内にたまった血と空気が肺を圧迫する重体に陥った。

 現場に駆け付けた町総務課消防防災係の工藤誠也係長(37)が出動を要請、ドクヘリが約20分後に到着した。救急医は携帯型エコーで容体を確認。その場で工藤さんの衣服を切り、左胸下部を5センチほど切開し、チューブで空気を抜いた。ドクヘリに乗せるまでの約10分間の医療処置。工藤さんはその後、熊本市の病院に約15分で搬送され命を取り留めた。工藤係長は「危険な状態だった。救急隊にできない処置をしてもらい、ありがたかった」と振り返る。

 ドクヘリ導入の効果を最も実感しているのは、消防署や消防本部のない消防非常備の7町村だ。中でも高千穂、日之影、椎葉の2町1村ではこれまで救急車が出動した際、医療者が現場に駆け付けることはなかったため、搬送時間の短縮に加え、医療者が現場に駆け付けて医療行為を直接行えるようになったメリットは大きいという。

 年間約100件を転院搬送する高千穂町立病院の箕田誠司院長は「救急車に医師が同乗すれば、その間病院に医師が不在になる。中山間地域でのドクへリの有用性は計り知れない」と太鼓判を押す。消防常備市町でも「救急隊員が病院を手当たり次第に探すことがなくなった。救急車の不在時間も減っている」(宮崎市消防局)など好意的な意見が目立つ。

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 ドクヘリを運航する宮崎大医学部付属病院の救命救急センターは医師16人、看護師47人体制で稼働している。このうちドクヘリに乗るフライトドクターは11人、フライトナースは7人。医師全員が救急医で、あらゆる外傷や病気の初期医療に対応できるスペシャリストがそろう。

 一日に医師1人、看護師2人がフライトを担当、日に5回出動もあるという激務だが、落合秀信センター長(49)は「宮崎の救急に貢献するという情熱を持った医師ばかり。後進を育てる気持ちも強い」。それを裏付けるようにセンター人員はこの1年で医師2人、看護師4人が増員された。ドクヘリを取り巻く人的環境は充実しつつある。

 ドクヘリに搭乗する金丸勝弘医師(42)は「ドクヘリで今まで助からなかった命を助けられる。救急医療を目指す医師が増えることで、ひいては本県地域医療の人材確保につながるのではないか」と未来図を描く。

【写真】ドクヘリに搭乗する救急医、落合センター長(左)と金丸医師

【上】現 状2013年4月18日付
【下】課 題2013年4月19日付

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