湿気がとれた頃合いを見計らって、三つの稲わらをまとめて、てっぺんを下に折り込み、わらで手早く結ぶ。頂点を結ぶことで、内部に水が入らず、乾燥が進む

稲刈り後、夕日に伸びる影

 棚田が広がる高千穂町上野の山あいにコンバインの音が響き渡る。稲刈り後の田んぼに並べられた稲わらが夕日に照らされ、影が伸びていた。この稲わらを1、2日乾燥させ、3束をまとめて立てたものを「わらとび」といい、さらに数週間干して牛の飼料にするという。稲作と畜産を同時に営む農家が多い同町で、10月中旬から11月中旬まで見られる昔ながらの風景だ。

 黒口地区の150アールの水田で米作りに励む佐藤きく子さん(68)は和牛生産も手掛け、10頭の牛の面倒を見る。3年前に夫・紘八郎さんが他界したため、稲刈りの繁忙期には1人では手が回らない。そんな時に手伝いに来てくれるのが、町内に住む長男英満さん(41)と長女村上恵理子さん(38)、その夫の直也さん(42)だ。

 わらとび作りは朝露が乾く午前11時ごろから、稲刈りと同時に行われた。英満さんが操るコンバインから、自動で中心を束ねられた稲わらが排出され、きく子さんはそれを受け止めて、田んぼに並べていく。恵理子さんと直也さんは数日前に稲刈りをした別の田んぼで稲束をわらとびにしていく作業を担当。三つの束の頂点をわらできつく縛り、手際よく三角形の形で立たせていく。小学生の頃から手伝ってきた恵理子さんは「わらとび作りには農家ごとにこだわりがあって、父は『水が入らないように頂点を下に曲げて結べ』とか『規則正しくきれいに並べろ』とかうるさかった」と懐かしそうに語った。

 わらとび作りもこなすきく子さんは、昼前に牛の餌やりでもう一仕事。青草と去年作った乾燥わらを混ぜた餌などを牛に与える。「わらとびをした稲わらは良い発酵が進んで、牛の健康に良いと獣医にも言われた」と話すきく子さん。佐藤さんの家で生まれた「かな」の餌箱に飼料を入れながら「いっぱい食べろ」と優しいまなざしを向ける。

 昼食後はまた4人で稲刈りとわらとび作り。腰を曲げながらの作業は簡単ではないが、「手間を掛けないといいものはできない。さてもう一踏ん張り」と笑顔を見せながら、足取り軽く棚田へ向かった。

【メモ】わらとびをした稲わらが完全に乾燥すると、機械でラッピングされ、倉庫などで保存される。高千穂町内の地区によっては「とうび」とも呼ばれる。このほか、脱穀前に竹ざおに干してもみとわらを同時に乾燥させる「掛け干し」や、脱穀後に稲束にせず、そのまま地面に落として、天日にさらす方法もある。