丸目地区の住民によって手入れされている乳岩さま。社にはご利益を求め甘酒などが供えられている

豊かな「母性」をたたえた形状

 見るからに豊かな母性をたたえた形状をしている。宮崎市清武町丸目地区の山中にある「乳岩さま」には、ウガヤフキアエズノミコトの養育に愛情を注いだタマヨリヒメの逸話が残る。お乳が滴り落ちたという乳房状の奇岩は、お参りすると乳の出が良くなると伝えられ、社には今も願掛けの甘酒が供えられている。

 乳岩さまと呼ばれる二つの石はきれいな半球状で直径は30~40センチ。大きくえぐられた巨石のひさし部分に並ぶように露出し、社から約5メートルの高さに位置する。

 地元の伝承では、ヤマサチヒコとタマヨリヒメは乳飲み子だったミコトを連れ、新天地を目指し鵜戸の宮(日南市)から狭野の宮(高原町)へ旅出つ。道中、腹を空かせたミコトに乳をあげようとするが出ない。タマヨリヒメが困っていたところ、白いしずくが滴る乳房の形をした岩を見つけて飲ませると機嫌が直り、旅を続けられたという。

 この伝説から岩は「乳の神様」と祭られ、子どもの健やかな成長を願う参拝者が母乳に見立てたのであろうか、甘酒を供えるようになった。同地区出身でそば店「乳岩亭」を営む日高武幸さん(66)は「お供え物は地区の子どもがもらっていいとされていた。参拝客を見掛けてはわれ先にと走ったよ、うまかったなぁ」と少年時代の甘酒の味を懐かしんだ。

 ヤマサチヒコら一行は旅を無事に終えたが、なぜ遠回りとも思える清武から田野を抜けるルートをとったのか。清武町史の編さんに携わる市清武総合支所企画総務課伊東但副主幹(53)は「天気がいい日は庁舎からも霊峰高千穂峰が望める。当時、遠回りでも実際に目的地を目視できる確実な順路だったのでは」と、神々の旅に思いを重ねていた。

【メモ】乳岩さまは、地質的には宮崎層群(700万年前)の厚い砂岩。「乳房」に見える球状の部分は砂の粒子が石灰分などにより固く結合したコンクリーションと呼ばれ、風化でこの固い部位だけが残った。丸く固まる仕組みは未解明で謎に満ちている。