わき芽を一本一本手作業で取っていく井前さん夫婦。根気のいる作業だが、一輪咲きにするため欠かすことができない

理想の形求め 管理徹底

 満月の静かな夜、国富町深年のビニールハウスに恍惚(こうこつ)の光景が広がる。年末から来春にかけて出荷される、秋ギクの電照栽培だ。天井につるされた無数の電灯は、約3万5千本のキクを照らし、ハウス内を紅紫色(こうししょく)に染める。

 秋ギクは、日が短くなると花芽を形成する性質を持つ。電照と暗幕を時季に合わせ使い分け、日照時間を錯覚させることで周年栽培が可能となった。同町深年で40年以上、キクの栽培に携わる井前和男さん(63)方で「再電照」という言葉を聞きハウスを見せてもらった。9月上旬に定植を終えた株に約60日の電照後、13日の消灯期間を経て再び、4日ほど光を当てるという。「花弁の数が増えて、花を咲かせた形が先細りにならない。理想とする姿に近づける」と井前さんは、いとしそうにキクを見つめる。

 関西の市場で人気が高く、国富神馬(じんば)と呼ばれる同町の電照ギク。県総合農業試験場花き部の川﨑真和主任研究員(37)は「定期的な株の系統選抜で、小葉で花にボリュームがある。姿、形、花の付き方が国富町全体でそろっている」と評価する。

 これまで、主に墓前や祭壇、献花として使われていたが、家族葬の増加や故人の好きだった花を飾る傾向が強くなり、需要は伸び悩んでいる。通常、つぼみの状態で出荷するが、他県では普段使いできるようにと開花させたものを出荷するなど、用途拡大を模索する。

 秋の花として古くから日本人に親しまれてきたキクの花。生産者の情熱に支えられ、一年を通じ手に入れることができるようになった。規則正しく並ぶ、小さな花芽を蓄えたハウスのキクは出荷の時を静かに待っている。

【メモ】 電照ギク栽培は昭和初期に愛知県で考案され、県内では、1953(昭和28)年に宮崎市の木花や赤江で導入が始まったとされる。現在は、電照以外も含めた露地や施設栽培で年間約1400万本が出荷される。電灯によく利用される赤色は、花芽の分化抑制に効果が高いことが分かっている。