1 プロローグ “おなかの記憶”鮮明

イラスト/オガタK 「おなかに双子がいたって、どんな感じ?」。双子の存在を神秘的と感じる人が多いからだろうか、そんな質問を受ける機会が度々ある。おかげで妊婦時代の“おなかの記憶”が色あせない。

 宇宙を抱えている気持ちだった。惑星が2つぽっかり浮かんでいた。妊娠中に知人が亡くなるたびに、おなかという宇宙に入った気がした。生と死が同じところにあって悲しみは和らいでいた。

 もしくは、広い緑の芝生に建つ、アパートの管理人のような気持ちだった。2階建ての上下の階で激しく動きがあったかと思うと、ニョロニョロと移動し、たまに部屋が横に並んだ平屋に変更することもあった。

 ある日、あぐらをかいて新聞を読んでいると、上下の階から同時にけ飛ばされ、真後ろに倒された。「家庭内暴力ならぬ子宮内暴力だ」と当時の日記には書いている。

 穏やかな胎動が空想を広げてくれる日も多かった。小鳥がくちばしでツンツンと突いてくるような、落ち葉が風に吹かれてカサコソと優しく足元をなでるような、ピアニッシモの小さな音符が弾んでいるような…。

 「小さな足がもぞもぞしている。指の1本1本まで分かる。2人は体の中にいるけれど、それぞれが独立したヒトなのだということを、私の意思ではない動きが教えてくれる」。日記にはおなかの世界を描いた文がてんこ盛り。いかに妊婦への進化、新しい体験が刺激的だったか読み取れる。

 1993年に記者となり、報道畑を歩んで11年目に初産で女児の双子を授かった。妊娠34週(9カ月目)で破水、帝王切開で1人は1755グラム、1人は1682グラムで生まれた。体つきはほぼ同じでも顔は似ておらず、2卵性とみられる。

 NICU(新生児集中治療室)などに1カ月入院し、そのあと再び“同居”を始めた。現在、1歳10カ月。点滴や栄養チューブをつながれ横たわっていたころが幻のように、ドタバタの毎日だ。

 あっちでおしっこを漏らされ、あっちではケチャップでカーテンを汚され。片方がソファから真っ逆さまに落ちたかと思えば、もう片方はぬいぐるみに牛乳をビチャビチャと飲ませている。

 制御不能―。いきなり複数形の育児に突入した身には、子供を追い掛けるだけで精いっぱい。イライラしたりオロオロしたり。それでも、抱っこしたかったのに、おっぱいがあげたかったのに、離れ離れだった時期を思い出せば、この騒がしい日常もいとおしくてたまらない。

イラスト/オガタK

 オガタK 日本工学院専門学校美術科卒業後、アニメーション彩色やイラストレーターとして活躍。宮崎市在住。