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高プロ創設

2018年4月17日
◆働く人のためになるか疑問◆

 政府が働き方改革関連法案を国会に提出した。厚生労働省の労働時間調査で「不適切データ」が次々に見つかり、法案の大きな柱だった裁量労働制の対象業務拡大の全面削除に追い込まれたが、高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)創設に向け、あくまで今国会中の成立を目指す構えだ。

不都合な事実にふた

 しかし大きな疑問がくすぶる。裁量制拡大を巡る国会審議で政府は、野村不動産への東京労働局の特別指導を実績としてアピールしながら、指導のきっかけになったとみられる社員の過労自殺には言及しなかった。審議が滞るのを恐れ隠したのではないかと追及されると、かたくなに説明を拒んだ。

 加藤勝信厚労相に特別指導に至る経緯を報告した文書が国会に提出されたが、大半は黒塗り。東京労働局長は記者会見で指導の経緯を聞かれ「何なら皆さんの会社に行って是正勧告をしてもいい」と脅しともとれる発言をして批判を浴びた。法案成立の障害になる事実にふたをしようと躍起になっているようにしか見えない。

 この間の政府の対応には不信感しかない。一般労働者の時間外労働が1日24時間を超えるなど「異常値」だらけの厚労省調査を基に、安倍晋三首相は「裁量制で働く人の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と答弁し、野党の追及で撤回した。加藤厚労相が「なくなった」としていた調査原票も、省内の倉庫から見つかった。

 野村不動産への特別指導を巡り、厚労省は是正勧告の有無も明らかにしない。過労自殺について説明するのを避けるためとみられる。不都合な事実を隠し通そうとするさまがここにも現れている。

対象職種拡大に懸念

 高プロについては野党がさまざまな問題点を指摘し、削除を求めている。本当に働く人のためになるのか。成立ありきで拙速に議論を運ぶのは厳に慎むべきだ。

 厚労省は一方で、「残業規制で中小企業はつぶれる」とする自民党内の声に押され、修正を重ねた。法案に盛り込まれた規制の施行は原則2019年4月だったが、中小企業については罰則付きの残業時間規制を20年4月、同一労働同一賃金は21年4月とし、残業規制で労働基準監督署が指導するときは「人材確保の状況や取引実態に配慮する」と付則に追加した。中小で働く人は置き去りにされた形となった。

 高プロは今後、焦点となろう。年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職を労働時間規制の対象から外すが、野党は「残業に歯止めがかからなくなる」と反対。制度が創設されれば、対象職種が拡大される懸念もある。政府は「時間ではなく成果で評価される働き方」と強調するが、詳細かつ丁寧に説明しない限り国民の理解を得るのは難しい。

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