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相模原殺傷事件初公判

2020年1月9日
◆根深い差別意識背景に迫れ◆

 2016年7月に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺傷事件の裁判員裁判初公判で、殺人罪などに問われた元施設職員植松聖(さとし)被告は起訴内容を認めた。弁護側は、事件当時は大麻による精神障害があり心神喪失か心神耗弱状態だったと無罪主張した。

 犠牲者が多く極刑の可能性もある裁判では、刑事責任能力の有無や程度が最大の争点だ。植松被告は捜査段階と起訴後の精神鑑定で「自己愛性パーソナリティー障害」と診断されたが、横浜地検は完全責任能力を問えると判断して起訴。弁護側との激しい攻防が予想される。

 植松被告は今なお「障害者は生きていても仕方ない」と言い放つ。重度障害者を「心失者」と自らつくり出した言葉で呼び「心失者は人を不幸にする」とも話す。その根深い差別意識をうかがわせる異様な思考はどのように形作られたのか。動機も含め、凶行に至る背景の全貌にどこまで迫れるか―が焦点だ。

 植松被告は17年から昨年にかけて共同通信の接見取材に「学生時代から、人生に意義を見いだしたくて悩んでいた」と振り返った。都内の私立大に進学し小学校教員を目指したが、うまくいかず、卒業後は運送業などを経て12年、地元の津久井やまゆり園に入った。

 そこで「やるべきことが見つかった」とし、事件については「有意義なことをした」と話した。障害者への根深い差別意識は変わっていない。

 2回にわたる鑑定の診断結果である自己愛性パーソナリティー障害は人格の偏りが大きく、万能感や特権的人間との自意識を持つ特徴がある。とはいえ、善悪の判断はできるとして、刑事責任能力を認められる例が多いとされる。弁護側は再度の鑑定を請求したが、裁判所は認めなかった。

 ただ植松被告は事件前の措置入院の際に「大麻精神病」と診断されたほか、逮捕後に尿から大麻の陽性反応が出たことから、再鑑定も考えられるとみる専門家もいる。

 もう一つ、この裁判で目を向けなければならないことがある。公判の冒頭、裁判長は「被害者のうち1人を除き、住所や氏名などを明らかにしない」と説明。検察側は起訴状朗読で死亡者を「甲A、B…」、けが人は「乙A、B…」とし、氏名を伏せた。家族の多くが差別と偏見に苦しめられた経験を持つことに配慮した「匿名審理」だ。

 また遺族らの傍聴席は他の傍聴人から見えないよう遮蔽(しゃへい)された。16年施行の障害者差別解消法が掲げる「人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」とは懸け離れた重い現実がそこにあることを忘れてはならない。

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