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原発裁判無罪で控訴

2019年10月4日
◆安全確保につなげる契機へ◆

 東京電力福島第1原発事故を巡り、旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪で強制起訴された裁判で、検察官役の指定弁護士は全員を無罪とした東京地裁判決を不服として控訴した。

 東電が最大15・7メートルの津波が原発に襲来する可能性があるとした試算を得ていた点をどう評価するかを焦点に、東京高裁で刑事責任の有無が改めて審理される。

 市民から成る検察審査会は「原発事業者は『万が一』にも備えなければならない」と検察が不起訴にした3人の刑事責任追及を求めた。これを踏まえ、指定弁護士は試算により巨大津波を予見できたとし「原発を止めたり、安全対策を取ったりする義務があったのに怠った」と主張。いずれも禁錮5年を求刑した。

 しかし地裁判決は予見可能性を厳格に判断。「事故を回避するため、原発を止める義務を課すほどの津波の予見可能性はなかった」などと、指定弁護士の主張をことごとく退けた。また、「東日本大震災前、法令上の規制や国の指針、審査基準などは絶対的な安全性の確保までを前提としていなかった」とも述べた。

 市民感覚との隔たりは大きく、指定弁護士は「到底納得できない」と強く反発している。控訴審では事故を防ぐために、いつまでに、どのような対策を講じるべきだったかを詳細に立証することになるだろう。「万が一」にどう備えるか。改めて議論する契機としたい。

 東京地裁判決を巡って専門家は「安全性のレベルを切り下げた」と批判。また指定弁護士は公判で講じるべきだった対策として、原発の停止以外にも非常電源の高台移転などを挙げていたが、判決は勝俣恒久元会長ら旧経営陣が津波襲来の情報に接した時期を基に、「事故を回避するためには、原発停止措置を講じるほかなかった」と絞り込んだ。

 そして「実務的には相当に困難なものであった」と強調。もともと個人の過失責任を問うことが難しい刑事裁判で、立証のハードルをさらに押し上げたとの見方もある。

 これまで強制起訴事件9件のうち、一審無罪は福島第1原発事故のほかに2005年の尼崎JR脱線事故など4件、事実上無罪の免訴も1件あるが、控訴や上告を経て判決が覆った例はない。

 とはいえ、今回の控訴は無駄ではない。大震災から8年半が過ぎた今も被災者らの苦難は続いており、事故の責任の所在をあいまいなままにせず、できる限り突き詰めていくことによって原発の安全確保につなげることを考えたい。

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