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高齢者は街の図書館

2019年9月14日
◆人生の軌跡に耳を傾けたい◆

 高齢者へのケアの一つとして、宮崎市の認定NPO法人ホームホスピス宮崎が聞き書き活動を始めて17年がたった。これまで高齢者を中心に100人以上の人生を記録し、現在は十数人のボランティア(聞き書き隊)が活動する。

 ボランティアの一人、山本和美さん(57)=宮崎市=は3年前から、鹿児島県に住む父親(87)に聞き書きし2冊の小冊子にまとめた。幼少期の思い出や母親との出会いなど鹿児島弁満載で語られる。「数珠つなぎのように次々と記憶がよみがえる。父の表情や言葉が生き生きとしてきて、話を聞いてくれる人が欲しかったんだなあと。私も、少年時代や若いころなどいろんな”父”に出会える。お互いにとても楽しい時間です」と山本さん。高齢であることを考えると、一緒にたわいない話をし、笑い合える時間が余計にいとおしく思えるという。

 戦争を知る最後の世代が家族にも秘めてきた思いを吐露し、「肩の荷が下りた」と言う人も多い。聞き書き隊リーダーの井上直敬さん(75)=同=は「苦労を乗り越えたさまざまな知恵に圧倒される」と話す。

 聞き書きの世界では時折、高齢者は街の図書館にたとえられる。戦争体験に加え方言、郷土史、農作業、遊び、苦難を乗り越えた知恵など広範囲に及び、凝縮した人生は図書館そのものだ。16日は敬老の日。長寿を祝い、”街の図書館”である高齢者の人生の軌跡に耳を傾ける機会にしてほしい。

 同時に、高齢者一人一人の生活に安心をもたらすよう、超高齢社会の将来設計をあらためて考えるときでもある。県は13日、100歳以上の長寿者が887人に上ると発表した。団塊の世代全員が後期高齢者の仲間入りをする2025年に高齢者人口はピークを迎えるが、その後も高齢化率は高く推移し35年は37・1%と見込まれる。

 少子高齢化による労働力人口不足によって、高齢者像は従来の「支えられる側」から「支える側」へ変わる可能性が十分にある。労働力を確保し、雇用と年金とを接続させるため、定年延長や定年そのものを廃止する動きが出てきているからだ。

 一方で高齢者の貧困抑制、多様な働き方の実現、医療と福祉の連携など、高齢者の生活を支えるためにクリアすべき課題は多い。高齢化が都市部より進行する本県では、山間部での高齢化率が極めて高い。なお一層の努力が欠かせない。

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