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新出生前診断

2019年8月16日
◆「命の選別」に考え深めたい◆

 妊婦の採血という簡便な方法で、胎児の染色体異常の可能性を調べる「新出生前診断」の在り方について、厚生労働省が秋にも検討を始めることになった。医学系学会の自主規制により、厳しい条件の下で行われてきた検査だが、条件を緩和する案を巡り、学会間で意見が対立したのがきっかけだ。

 出産年齢の高齢化が進み、検査への関心は高まっている。検査には胎児の状態を早期に把握し、治療や支援などにつなげるという目的もあるが、中絶につながる可能性があり「病気や障害のある子どもの存在を否定しかねない」「命の選別になる」と懸念する声は多い。

 国内では2013年4月、臨床研究として始まった。昨年9月までに約6万5千人が受け、胎児の染色体異常が確定した妊婦886人の約9割が中絶している。倫理的な課題をはらみ、かつ進歩の速い医療技術とどう向き合うか。広く社会全体で議論するときだ。

 検査は妊婦の血液中に混じる胎児のDNAを基に、胎児にダウン症、13トリソミー、18トリソミーという3種類の染色体異常があるかどうかについて、かなり高い精度で調べられる。

 日本医学会は、検査を受けるかどうか、また、受けた場合の結果をどう受け止めるかについて妊婦らが十分に理解した上で決めるべきだとして、遺伝医学の専門家らによるカウンセリングができる病院約90施設を認定。対象は高齢の妊婦らに限定している。

 ただ、16年ごろから認定外の民間クリニックが検査を始め、不十分なカウンセリングで妊婦が戸惑う事例が問題化。これを受け日本産科婦人科学会が、研修を受けた産婦人科医がいれば小規模な施設でも実施できるようにする条件緩和策をつくり、理事会で了承した。これに日本小児科学会などが反発したため、厚労省が「妊婦らに不安が広がりかねない」と検討開始を決めた。

 国が議論の場を設けることを歓迎したい。厚労省は認定外の民間クリニックなどでの実施件数を調査し、有識者検討会に結果を公表する見通しだ。カウンセリングの有無や検査費用の把握も含め、実施状況を評価した上で必要な要件を整理し直すことが欠かせない。

 障害の有無や程度は、その人や家族の幸、不幸を直接決定づけるものではない。しかし今後は、検査がさらに普及し、医療技術の進歩によって新たな検査も出現してくるだろう。遺伝子情報の取り扱い、受診者側の障害や病気のとらえ方など理解を深める必要がある。国の調査と議論がその端緒となることを求めたい。

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