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少女像展示中止

2019年8月8日
◆行政が表現を萎縮させるな◆

 愛知県で国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕からわずか3日目に突然、中止に追い込まれた。企画展では従軍慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」などが展示されていたが、2日間で約1400件にも上る抗議の電話やメールが殺到した。

 美術館などで過去に展示不可とされた作品を集め、「表現の自由」について議論を喚起するのが企画展の狙い。少女像のほか天皇や戦争、憲法9条などをテーマにした二十数点が並んだ。中でも少女像に抗議が集中。芸術祭実行委員会会長を務める大村秀章知事は「安全の確保が難しい」と説明した。

 日韓関係の悪化もあり、賛否両論があるのは当然としても、異なる意見を認めようとせず、卑劣な脅迫に走ることは断じて許されない。その一方で、政治や行政の対応にも問題が多い。開幕直後、会長代行の河村たかし名古屋市長は少女像について「日本人の心を踏みにじる」と批判、大村氏に中止を求めた。

 文化庁の補助金事業であることから、菅義偉官房長官も補助金交付を慎重に判断する考えを示した。こうした発言が一連の抗議を勢いづかせた可能性もある。表現の自由は大きく傷ついた。これを「あしき前例」としないため、表現の場確保に努力を払うことが求められよう。

 少女像は民族服姿の座像。韓国の彫刻家夫妻が制作、ソウルの日本大使館前に設置された。世界各地にも同じ像があり、日韓対立の火種になってきた。

 展示内容から実行委も一定の反発は想定していたが、それを超える抗議が押し寄せた。「ガソリン携行缶を持って美術館に行く」と京都アニメーション放火殺人事件を連想させる内容のファクスまであった。ただ、それ以上に想定外だったのは河村氏の抗議だろう。

 中止発表後に改めて記者会見した大村氏は河村氏が展示中止を求めたことを「表現の自由を保障した憲法21条に違反する疑いが極めて濃厚ではないか」と批判。「検閲ととられても仕方ない」とした。これに対し、河村氏は「検閲ではない」と強調。少女像展示を巡り「数十万人に強制したという韓国側の主張を認めたことになる」などと反論している。

 河村氏はかつて「南京大虐殺」はなかったのではないかと発言、南京市と名古屋市の交流停止に発展したことがある。今回の発言も不用意というほかない。行政が展示内容に口を挟むことが、どんな影響をもたらすかということには考えが及ばないようだ。表現活動を萎縮させないため、再展示も含め何ができるか考えてみる必要がある。

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