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幼児教育・保育の無償化

2019年5月29日
◆待機児童解消を優先させよ◆

 改正子ども・子育て支援法が成立した。安倍晋三首相が掲げる「全世代型社会保障」の目玉として、幼児教育・保育の無償化を盛り込んだ。10月予定の消費税増税に合わせて実施される。

 無償化されるのは認可保育所や認定こども園、幼稚園にかかる費用で、対象は3~5歳児は原則全世帯、0~2歳児は住民税が非課税の低所得世帯だ。認可外施設に通う場合も一定の上限を設けて利用料を補助する。

高所得世帯ほど恩恵

 これまで社会保障の給付は高齢者に偏っていたから、子育て世代向け施策の拡充は結構なことだ。だが、子育ての現場からは法案提出前から異論が噴出した。「無償化より待機児童の解消が先ではないか」という疑問だ。

 待機児童は昨年4月時点で約2万人。無償化すれば潜在的な保育需要が掘り起こされることが予想される。待機児童が減るどころか保育所不足が加速し、子どもを預けて働きたいと希望してもかなわない事態が頻発する恐れがある。

 認可施設に入れず認可外施設を選ばざるを得ない人が続出すれば、費用負担の面で不公平感が増す。だからといって、やみくもに受け皿整備を急げば、保育の質を確保できるのかが心配になる。改正法では、保育士数など国の指導監督基準を下回る認可外施設でも5年間は無償化の対象に含まれるが、認可外では突然の閉鎖などトラブルが指摘されている。

 心配なのは、無償化が高所得者優遇につながる点だ。国会審議では野党も重ねて批判した。保育料は所得に応じて決まり、低所得世帯ほど負担が軽くなる。このため、所得制限を設けず全世帯を無償化すると、所得が高い世帯の方が受ける恩恵は大きくなる。新たな格差を生むことにならないか。

負担将来に回す構図

 次世代育成を図る施策だから、所得を問わず中高所得層にも受益者を広げるのは理想かもしれないが、それは国の懐具合に余裕がある場合だろう。無償化に充てる財源は、増税による増収分のうち国の借金減らしに使うはずだった分を削って捻出する。「子育て世代のために」と言いながら、実際は将来世代に負担をつけ回す構図になっている。

 学ぶべきは、先に無償化に踏み切った韓国の教訓だ。ニッセイ基礎研究所の金明中・准主任研究員によると、待機児童は減らず、劣悪な施設が野放しになったという。韓国の出生率は0・98と日本以上に少子化が深刻化するばかりだ。金研究員は「朴(パク)槿恵(クネ)政権による人気取り政策の一つだったが、課題は多い」と手厳しい。

 振り返れば、日本の無償化も2017年秋の衆院選を前に首相が唐突に打ち出したのが始まりだ。与党が改正法成立を急いだのには夏の参院選で成果を誇りたい意図が透ける。保育士増員に一層の工夫を凝らした上で、質の高い認可施設の整備を急ぐ必要がある。

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