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陛下即位と恩赦

2019年5月23日
◆慶弔時の救済本当に必要か◆

 天皇陛下の即位を内外に告げる10月の「即位礼正殿の儀」に合わせ、政府内で恩赦が検討されている。皇室の慶弔などに際して、刑罰の免除や減刑、停止された法律上の資格の回復などを行う制度。奈良時代からあり、統治者が特別の恩典によって罪を赦(ゆる)すことで慈悲や寛大さを示し、支配を固める手段として用いられた。

 現在は憲法と恩赦法に基づき、内閣が軽犯罪法違反、あるいは罰金刑というふうに政令で対象とする罪や刑の種類を定め、広く一律に実施する「政令恩赦」や、そこから漏れた人について個別に審査する「特別基準恩赦」がある。

目立つ選挙違反復権

 法務省は「更生の励みになる」と説明する。だが行政の権限で司法の判断を覆すことになる三権分立の例外の運用は極めて抑制的であるべきだとの声は根強い。さらに平成時代、昭和天皇大喪などに伴う3回の恩赦では公民権停止中の選挙違反者が続々と復権し「政治恩赦」との批判を招いた。今回の恩赦は夏の参院選を視野に入れているのではとの見方もある。

 慶弔時の恩典は必要か。慶弔とは関わりなく、普段から個別に更生の状況などを審査して行う「常時恩赦」もあり、それで十分に対処できると専門家はみる。制度について議論を尽くす必要がある。

 明治期、恩赦は詔勅で罪や刑の種類を示して行われ、大日本帝国憲法は天皇の大権事項としていた。現行憲法は内閣が決定し、天皇が認証すると規定。有罪の効力を失わせる「大赦」「特赦」をはじめ「減刑」や「刑の執行の免除」、有罪で喪失・停止した資格を回復する「復権」がある。

 大赦を受けた受刑者は釈放となり、被告は免訴判決を言い渡され、容疑者については捜査が終結する。特赦の場合も受刑者は釈放されるが、それ以上の救済はない。

政治的な思惑が左右

 近年は公選法や道交法、軽犯罪法の違反など軽微な犯罪について実施されることが多く、復権が中心になっている。そんな中、目立つのが罰金刑などで公民権停止となり、選挙権・被選挙権を制限された選挙違反者の復権だ。

 1989年に昭和天皇大喪に伴う復権令で約1万5千人、特別基準恩赦で約600人が対象となった。90年には上皇さまの天皇即位で復権令と特別基準恩赦を合わせ約4900人、93年にも陛下の結婚で約5700人が救済された。

 道交法違反者も対象となり、数ははるかに多い。とはいえ、回復されるのは国家試験の受験や自動車運転代行業の資格などで、ほとんど意味はない。復権で実際に利益を得るのは選挙違反者だけといっていいだろう。

 時の内閣が外部からのチェックも受けず、皇室の慶弔に合わせて決定する恩赦は政治的な思惑に左右されやすい。そもそも皇室の慶弔と選挙違反の一斉救済を結び付ける合理的な理由はない。安易に繰り返すことは厳に慎むべきだ。

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