ホーム 社説

裁判員制度10年

2019年5月21日
◆市民の参加促進へ知恵絞れ◆

 法律の専門家ではない一般市民が殺人や傷害致死など重大事件の審理と判決の言い渡しに参加する裁判員制度が開始から10年の節目を迎えた。最高裁によると、今年3月末までに裁判員と補充裁判員の経験者は9万人超。判決を受けた被告は約1万2千人。市民参加は「分かりやすい裁判」を促し、法廷に大きな変化をもたらした。

 捜査段階の供述調書など書証の調べに膨大な時間と労力を費やし、事実関係を細部まで調べ上げる「精密司法」が主流だった裁判は、争点を絞り込む「核心司法」へと転換。書証中心の「調書裁判」より、法廷で被告や証人の話を直接聞く「公判中心主義」に重点が置かれるようになった。

辞退者は過去最高に

 その影響は裁判員裁判対象事件以外の裁判にも及ぶ。しかし制度を巡り、いくつか気になることがある。裁判員候補者に選ばれても仕事などを理由に辞退した人の割合は増え続け、昨年は過去最高の67%に達した。裁判所による選任手続きへの候補者の出席率も年々低下している。審理の長期化や関心の低下が要因とみられている。

 裁判員を確保できないような事態は起きていないが、制度の安定的な運用が国民の理解と協力に支えられていることを考えると、軽視できない。人を裁くという非日常に身を置く裁判員の負担軽減とともに、市民参加をどう促すかに一層知恵を絞る必要がある。

 最高裁がまとめた制度10年の総括報告書によれば、尋問した被害者や目撃者、共犯者ら証人の数は裁判員裁判が初めて通年で実施された2010年、全事件の平均で2・1人。それが12年以降は2・9~3・1人となり、否認事件に限ると18年は4・4人。自白事件で書証の調べにかけた時間も11年は平均83・4分だったのに対し、18年は62・9分。公判中心主義へシフトしているのがよく分かる。

公判審理は劇的変化

 被告の保釈率も上昇する傾向にある。制度導入から3年間は8・5%だったが、12年6月から18年末までは10・7%に伸びた。法廷で被告本人からしっかり話を聞くためには、本人が弁護人と打ち合わせをし、十分に公判準備をできるようにする必要があるからだ。

 裁判員裁判の対象ではない事件も含めた全体の保釈率も18年は32・5%と08年の倍以上。東京地検特捜部から特別背任罪などで起訴された前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が否認のまま4月に2度目の保釈を認められた背景にも、こうした流れが見て取れる。

 最高裁は「公判審理は劇的な変化を遂げた」と評価する。だが不安もある。裁判員候補者に選ばれた段階で辞退を申し出て認められた人の割合は、09年の53・1%から12年には60%を超えた。長期審理を避けるなど裁判員の負担を軽減するのはもちろんだが、その貴重な経験を社会に広く伝え、もっと多くの人に共有してもらう取り組みを考えたい。

このほかの記事

過去の記事(月別)