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「北方四島帰属」削除

2019年5月11日
◆政府方針を国民に明示せよ◆

 2019年版外交青書から、前年まで記載されていた「北方四島は日本に帰属する」という北方領土交渉に当たっての日本政府の立場に関する記述が消えた。

 河野太郎外相は「総合的に勘案をして書いている。政府の法的立場に変わりはない」と述べたが、変化していないならばなぜ記載しないのか。矛盾している。

 「北方四島は日本に帰属する」という記述は、民主党の野田佳彦首相時代の12年から続いてきた。使われていた記述が丸ごとなくなれば、何らかの方針変更があったと受け止めるのが当然だ。

2島決着へ大転換か

 領土交渉を全てオープンにできないことは理解できるが、政府の基本的な立場は国民に明示されなければならない。

 択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の4島を巡っては、安倍晋三首相とプーチン大統領が昨年11月、平和条約締結後に色丹と歯舞を引き渡すと明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させる方針で一致。日本政府としては、4島返還から2島決着への方針の大転換になるが、安倍首相らはそれも認めようとしない。

 まるで「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」である。これでは国民は推測や臆測で北方領土交渉を捉えざるを得なくなってしまう。

 以前にも、日本の立場に関する記述の変更はあった。「日本固有の領土である北方四島の帰属の問題」という小泉純一郎首相当時の表現が、やはり第1次安倍内閣時に「日本固有」という表現が削られ、「北方四島の帰属の問題」になった。

 「日本固有」の語句は4島の占拠が不法であることを意味し、ロシアに対する厳しい表現である。今の安倍内閣下でも消えているが、領土教育が強化された新学習指導要領には明記されている。

ロシアに配慮し曖昧

 「不法占拠」という言葉を巡っても、似たようなことが起きている。外務省のホームページには「ロシアによる不法占拠」とあるのに、安倍首相らがこのところ国会でそう答弁するのを避けるようになっていたからだ。政府は3月、「どのような場でどのような表現を使うかは、その時々の政策的判断により異なり得る」との答弁書を閣議決定している。

 外交青書から記述が消えたり、安倍首相がある言葉を使わなくなったりするのも「その時々の政策判断」なのだろう。しかし、判断についての説明責任は生じるはずだ。こうした曖昧な態度は、難航する北方領土交渉を動かすために4島を実効支配するロシアに配慮しているとの見方がもっぱらだ。

 論語出典の「由らしむべし…」は現在、「為政者の方策を国民に理解させる必要はない」という意になっているが、もともとは「理解させるのは難しい」という意味だったという。そこには「だからこそ説明責任は果たさねばならない」という含意もあるはずだ。

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