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メルケル氏引退へ

2018年11月7日
◆懸念される協調主義の衰退◆

 国際協調のリーダーだったメルケル・ドイツ首相が政界を去る意向を表明した。一連の選挙の敗北と政治の混乱の責任を取って、自ら率いる保守与党であるキリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞任し、首相の再選も求めない。直接の敗因は難民政策だ。メルケル氏はシリアなど中東や北アフリカの混乱を逃れてきた難民を大量に受け入れる決定を行い、100万人以上の難民が流入。これに反発する右派政党が国民の不安をあおる形で成長を遂げた。

難民流入で世論分極

 大量の難民流入に対する国民意識は、経済面におけるプラス効果などの冷静な判断よりも、治安の悪化やイスラム教徒との文化的な摩擦を嫌う感情論が勝り、メルケル氏が欧州本来のものと語る寛容さを支持しなかった。

 ドイツは強い経済や堅固な民主主義制度、そしてナチス・ドイツの下で引き起こした第2次大戦の教訓から、世界で最も安定している先進国とみられてきたが、そのドイツで非寛容勢力が伸長。メルケル氏はポピュリズム(大衆迎合主義)の波を甘く見た。

 反難民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」とともに、リベラル派の緑の党も議席を伸ばしており、中道政党の衰退と国民世論の分極化が表面化した。

 欧州は英国の欧州連合(EU)離脱交渉や、依然続く難民への対処、財政に関するイタリアとEUの対立、軍事的な脅威を強めるロシアへの対応など、難問を多く抱える。ドイツは欧州の中心国家だが、「メルケル後」として候補に挙げられる政治家の指導力にはどれも懸念がある。

世界でポピュリズム

 メルケル氏は、一国主義を掲げ保護貿易に踏み出したトランプ米大統領を痛烈に批判してきた。トランプ氏もメルケル氏を嫌っていた。メルケル氏の政界引退は国際協調主義の衰退と一国主義の隆盛という世界的な潮流を象徴する。

 欧州ではイタリアで今年、反EU政策の政権が発足、スウェーデンでも総選挙で極右政党が議席を大幅に伸ばした。英国でEU離脱が決まった要因は、移民・難民の流入に対する恐れを反EU派があおったこととされる。

 ポピュリズムは世界各地に現れている。ブラジルでは大統領選決選投票で、女性や少数派への差別的発言で知られるボルソナロ下院議員が当選。フィリピンのドゥテルテ大統領もポピュリズム的な体質を持つ。

 躍進の原因は、既存の政治が国民の不満を正確にとらえ解消策を打ち出せていないことだ。グローバリズムや自動化がもたらす職の喪失や移民・難民受け入れに対する不安感に対応できていない。

 ポピュリズムの代表と言えるトランプ氏は移民を拒絶する姿勢や高関税などの措置をとるが、根本的な解決策ではない。瞬発的な発想ではなく、幅広い議論の末に政策を練り直すことが求められる。

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