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首相の改憲意欲

2018年11月2日
◆幅広い合意得る努力が必要◆

 衆参両院で、安倍晋三首相の所信表明演説に対する与野党の代表質問が終わった。鮮明に浮かび上がったのは、憲法改正など自らが掲げるテーマに対する安倍首相の強い意欲と、批判的な質問に対する極めて不誠実な態度だった。国会質疑は、与野党双方が丁寧に議論を尽くして幅広い合意を形成する努力をしなければならない。そうでなければあっという間に形骸化し国民の強い政治不信を招く。

与党は「ご意見伺い」

 安倍首相が最も能弁になるのは憲法改正だ。「自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる環境を整えることが今を生きる政治家の責任だ。国民のため命を賭して任務を遂行する隊員の正当性の明文化、明確化は国防の根幹に関わる」 自民党の稲田朋美筆頭副幹事長による質問に対し、安倍首相は憲法9条への自衛隊明記を主張。その後、同様の答弁を繰り返した。

 内容とともに、このやりとりで注目すべきなのは、代表質問としてあるべき形なのかという点だ。稲田氏は安倍首相の側近で、発言も質問というより「ご意見伺い」に近かった。

 安倍首相も「憲法改正の内容について、私が首相として、この場でお答えすることは差し控えさせていただく」としながら、「お尋ねなので私が自民党総裁として一石を投じた考えの一端を申し上げたい」と断って持論を展開した。思想信条が近い稲田氏が安倍首相に憲法改正の具体案を語らせるために水を向けた格好だ。

 与党といえども、政府をチェックするのが国会としての最大の役割である。このような「質問」が横行するようでは、その役割を自ら放棄することになる。

批判には論点ずらす

 安倍首相は所信表明演説で「憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆さまの理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られる」と議論の加速化を促した。

 安倍首相は「憲法尊重擁護義務を負う首相の改憲に関する発言は自制的、抑制的であるべきだ」とした立憲民主党の吉川沙織氏に対し、「政治上の見解等について国会に対し議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨に反しない」と反論。吉川氏は自制や抑制を求めているのであり、かみ合っていない。

 立民の枝野幸男代表が求めた原発ゼロ基本法案、分散型エネルギー社会推進4法案など野党側提出法案については「国会運営にかかるものであり、国会がお決めになるものだ」と取り合わなかった。

 与党側が口火を切った形の憲法改正については首相と自民党総裁の立場を使い分けて冗舌に語り、野党側の求めに関しては論点をずらして首相のポストに閉じこもり応じない。ご都合主義の極みではないか。安倍首相には熟議を目指す姿勢を求めたい。

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