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国際リニアコライダー

2018年10月11日
◆世界率いる研究ぜひ誘致を◆

 物理学によると、空間には「ヒッグス粒子」がぎっしり詰まっているという。物質を構成する電子などの素粒子はもともと重さがなく、この粒子にまとわりつかれることで重さを持つようになる。ヒッグス粒子は生まれたばかりの熱い宇宙で自由に飛び回り、宇宙が次第に冷えて4千兆度になったとき、水が氷になるように凍り付いた。何もないように見える真空にも、膨大な数の粒子がひしめいているとされる。

影薄い日本の研究力

 2012年、欧州合同原子核研究所の巨大加速器(LHC)を使い、宇宙誕生直後の状態をつくり出す実験で、ヒッグス粒子の存在は確認されたものの、その性質は謎に包まれている。

 長さ20キロの直線状の加速器を建設し、この粒子を大量につくり出し、徹底的に性質を調べ、宇宙を支配する新しい原理の手がかりをつかむ。そんな野心的なプロジェクトが「国際リニアコライダー(ILC)」だ。

 LHCの次の実験として05年以降、国際チームが研究開発や設計を進めてきた。各国の研究者は日本での建設を望んでおり、政府は誘致するかどうか決断を迫られている。建設地は、福岡、佐賀県が中心となり誘致活動を展開した経緯もあったが、岩手県の北上山地が有力視されている。

 安倍政権の科学技術政策は目先の利益につながりそうな研究を「選択」し、資金を「集中」するばかりで、日本の研究力は長期低落傾向に歯止めがかからず、国際的な存在感も薄くなりつつある。ILCが実現すれば、日本はもちろんアジアでも初の国際的な研究拠点となる。世界の研究者が集まり、日本にとって大きな刺激となる。新たな研究が芽生え、各国の協力を得てさらに発展することもできる。ぜひ誘致すべきだ。

緊張緩和にも貢献か

 第2次世界大戦後の荒廃した欧州で、科学を通じた平和構築の場として欧州合同原子核研究所が設立され、その使命を見事に果たしてきたように、ILCはアジアの緊張緩和にも貢献できるはずだ。

 建設費は7400億~8千億円、そのうち3800億~4100億円を誘致国が負担する。少ない額ではないが、東京・日本橋の景観のため高速道路の地下移設に3200億円を使う国で不可能な額だろうか。

 政策の失敗によって傾きかけているとはいえ、日本はまだまだ「科学大国」だ。国際社会で果たすべき役割があり、大型プロジェクトを戦略的に進める必要がある。米国も中国も着実に大型プロジェクトを進めている。一方、今の日本には世界をリードする戦略がない。

 資金に余裕のある米国に加え、インドも日本での建設に積極的に協力する姿勢だという。内向きの政策を続け、「科学大国」の座から降りるのか。政治の決断に注目したい。

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