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ノーベル平和賞

2018年10月10日
◆性暴力根絶へ世界は結束を◆

 2018年のノーベル平和賞に、紛争下の性暴力被害と闘う2人が決まった。受賞者はアフリカ中部コンゴの産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏で、民兵らの性暴力の被害を受けた多くの女性の治療を続ける傍ら、女性の生活支援や権利擁護にも取り組んできた。もう1人は、イラク北部で育ったクルド民族少数派ヤジド教徒のナディア・ムラド氏だ。14年に過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致され「性奴隷」としてレイプを繰り返されたが、生還した後、ドイツを拠点に性暴力の根絶と被害者の尊厳を訴えている。国際社会は結束して性暴力根絶へ向け、注力すべきだ。

紛争地域で「武器」に

 紛争やテロが続く地域で、軍、民兵、過激派などの武装組織が「武器」としてレイプなど性暴力を組織的に使用していることを、国際社会が深刻な問題としてとらえたのは近年になってからだ。国連安全保障理事会による08年6月の「紛争下の性暴力防止に関する決議」が画期となった。

 安保理決議は、紛争下の性暴力が戦争犯罪であり「人道に対する罪」「ジェノサイド(民族大量虐殺)」に当たり、性暴力防止は国際平和の前提であるという認識を初めて明確にした。ノーベル賞委員会の授賞理由の中でも、今年が決議から10年の節目に当たることが指摘されている。

 国連のグテレス事務総長が4月にまとめた「紛争関連の性暴力」を巡る今年の報告書では「関与や責任が疑われる団体」としてシリア軍・情報機関、コンゴ、ソマリア、スーダン、南スーダンの軍や警察のほか、ISや、ナイジェリアで女子生徒多数を拉致した過激派ボコ・ハラムの名が挙げられている。イスラム教徒少数民族ロヒンギャに組織的に性暴力を振るった疑いがあるとしてミャンマー軍が初めて加わった。

「私も」運動とも共通

 ノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は「女性への虐待に目を向けることが重要」という点で、性被害を告発する運動として昨年から世界に広がった米国発の「#MeToo」(「私も」の意味)運動とも共通するという考えを示した。

 関係者の性的暴行問題が浮上したノーベル文学賞の発表が今年は見送られ、日本ではセクハラ行為が発覚した財務事務次官が辞任に追い込まれるなど、性被害告発のうねりは世界を揺さぶっている。

 今世紀に入り、ノーベル平和賞の対象は環境問題や貧困、教育などに拡大した。人類が抱える多様な問題が国際平和に深く結びついているという認識を広めた効果はあったが、賛否両論があった。

 この数年、平和賞は国民和解や内戦の和平合意、核軍縮といった伝統的テーマを選んできた。そうした流れの中で、平和賞が今回、紛争下の性暴力という人類社会の暗部に初めて焦点を当てた歴史的な意義は大きい。

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